誰もが愚かな行動をしてしまう…カンヌパルムドール受賞作
アメリカで開催中の第55回ニューヨーク映画祭に出品された話題作『ザ・スクエア(原題) / The Square』について、リューベン・オストルンド監督が9月28日(現地時間)、ニューヨークのリンカーン・センターにあるウォルターリード・シアターの記者会見で語った。
『フレンチアルプスで起きたこと』のスウェーデン人監督オストルンドがメガホンを取った本作は、今年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞。現代アート美術館のキュレーターとして働くクリスチャン(クレス・バング)は、次回の展覧会「The Square」に向けてアメリカ人ジャーナリストのアン(エリザベス・モス)のインタビューを受け、着々とその準備をしていた。だがある日、携帯電話を盗まれたことで、さまざまなプロジェクトの流出を恐れた彼が取った行動により、自身の地位だけでなく、美術館の存在すら危うくなるというストーリー。
オストルンド監督の友人や監督自身の体験が多く含まれており、携帯電話が盗まれたエピソードも実体験をもとにしているそう。「実は、『フレンチアルプスで起きたこと』の女性プロデューサーが、今作のように携帯電話を盗まれたことがあったんだ。なんと彼女はクリスチャンと似たようなことをしたんだよ。Find My iPhone でその行方を探し、追跡した町に母親と向かった彼女は、犯人が住むと思われるビルで『もし携帯電話を返さなければ、警察に訴える』と50枚の張り紙を貼り付けたり、郵便箱に入れたりしたらしいんだ」と衝撃の事実を明かした。続けて「映画では、誰もが愚かな行動をしてしまう可能性があり、自分にも起こりうるということを描きたかったんだ。キャラクター自体を問題にしているわけではなく、自分にも愚かな行動を取る可能性があることをテーマに、社会的論理でアプローチしてみたんだよ」と語った。
美術館主催のディナーシーンで、『猿の惑星』シリーズでおなじみの俳優テリー・ノタリーが参加者の前でアーティストとして猿(チンパンジー)のパフォーマンスをするシーンが印象的だが、「事前にGoogleで『猿のマネをする俳優』という検索をしたんだ。それで、テリーが出演した『猿の惑星』シリーズの宣伝用の映像をYouTubeで観たんだよ。彼はモーションキャプチャーを行っていて、猿のように伸ばせるエクステンションが腕につけられていたんだけど、それを見て猿があのような動きをするのは手の長さが人間と違うからなのかと気付いたんだ。人間がたまに猿のマネをすると何か違うのは、そのせいなのだとも思ったね。その映像でテリーは熟練俳優のようにチンパンジー、ゴリラ、オランウータンを演じていたんだ」と語った。正装したディナーの出席者と上半身裸で動物的な動きをするテリーの演技が対照的で面白いシーンだ。
国際的な俳優陣をキャストしたことについては「『フレンチアルプスで起きたこと』では、ブラディ・コーベットくらいしかいなかったから、国際的な俳優陣との仕事に少しナーバスになっていたかな。僕の演出手段は、英語で伝えるにはちょっと繊細すぎると思っていたからね。でもキャスティング過程で、エリザベスや(アーティストのジュリアン役で参加の)ドミニク・ウェストにロンドンで会ったとき、即興で演じてもらったら本当に素晴らしくて。その時点ではほとんどスカンジナビア半島の俳優のキャスティングをしていたから、このままでは問題になると思ったんだ。結局、現代美術を描く上で国際的俳優のキャスティングも可能だと思えたんだけど、彼らのことをとても気に入ってしまったよ。ただ普段(出演している作品で)はおそらく5、6テイクがせいぜいの彼らにとって、平均で40テイク撮影する僕の映画に合わせるのは大変だったと思うよ」と明かした。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)