幻のシーンが復活『ブレードランナー』続編で描かれた新たな世界
SF映画の金字塔『ブレードランナー』の続編『ブレードランナー 2049』を世界中で大ヒットさせたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が来日。新たなブレードランナー世界をどのように創造したのか、そのために何を持ち込んだのか、リドリー・スコットはどう関わったのか、製作の舞台裏を聞いた。(取材・文/平沢薫)
この映画には、オリジナル版撮影時に一度は絵コンテや脚本に書かれたが撮影されなかった場面や、ボツになった設定が使われたシーンがあり、オリジナル作のファンの心をそれだけで熱くする。そうした要素は、監督が意図的に使ったものだった。
「あれは意識的にやっている。オリジナル作へのオマージュとしてね。とくに、映画の冒頭近くをそういう場面で始めるというアイデアはすごく気に入っている。そうすることで、オリジナル作製作時にあった夢、“最初にあった夢”から映画をスタートさせたいと思ったんだ」。
「それに(オリジナル作及び本作の共同脚本家ハンプトン・)ファンチャーも、(オリジナル版の監督で本作製作者の)リドリー(・スコット)も、あのシーンがとても気に入っていたことを知っていたからね。2人が実現できなかったシーンに、僕が生命を吹き込もうと考えたんだ。それ以外にも、オリジナル版に直接触発されたシーンはたくさんある。この映画のすべてが、オリジナル版とリンクしていると言ってもいいと思う」。
となると、監督自身がかなり脚本に関わったのだろうか。本作のストーリーが、オリジナル作よりもフィリップ・K・ディックの原作小説のテーマ“人間とは何か”に直結しているのも、監督の意図なのかとも思えるのだがーー。
「テーマについては、脚本家が素晴らしい仕事をしたんだと言わなくちゃいけないな(笑)。僕が監督を引き受けたのは、脚本にとても強い芯があったからなんだ。僕も脚本には関わったけど、ストーリーの性質やキャラクターの本質は変えていない。そうでなければ、脚本のクレジットに僕の名前を入れてもらってるよ(笑)。僕が脚本に関わったのは、各場面のイメージに関連する部分だ。脚本を映像に翻訳するという意識でビジュアルを考えた」。
「ビジュアル面で印象に残る“雪のロサンゼルス”の光景は、監督が育った雪のモントリオールを原風景に創造したものだという。そしてその光景と対になる“赤い砂漠と化したラスベガス”にも原点となるイメージがあった」。
「ラスベガスのイメージは、リドリーとファンチャーが、ラスベガスを爆弾が落ちた場所だと考えたのが原点だ。そこから、僕と(撮影のロジャー・)ディーキンスは、まず爆弾投下後の砂塵が空中を舞っているイメージを発想した。塵のために空が黄色くなり、世界の終わりのような黄昏の色になっていく。そこでは人々が狂気のような欲望によって動き、あらゆるものが現実から遊離して夢のようなものになっていく。そういう色彩と雰囲気を創り出したいと思った」。
「他にもこの映画には、ロサンゼルス以外の場所が幾つも出てくる。それらを、閉所恐怖症になりそうなロサンゼルスとは別の雰囲気で描くことを意識した。この世界を、最初の映画のテンションを保ちながら、別の角度から描きたいと思ったんだ」。
オリジナル作の監督リドリー・スコットは、監督に「すべてを自由に撮ればいい」と言ったという。スコットは本作に、どんな感想を抱いたのだろうか。「完成前から、彼と一緒に映像の一部を見る機会が何度もあって、そのたびに彼は“僕はこれが大好きだ”と言ってくれた。それを聞いてホッとしたよ。自分以外の誰かの夢を創るというのは僕にとって初めての体験で、大きな責任を感じていたからね」。
そして、監督は本作ですべての謎の答を描いたわけではない。「謎によっては、答を描くよりも、疑問符で終わった方が興味深いと思うから。僕自身がオリジナル作を見たときに、答が明らかではないところがいい思った謎については、答を出そうとは思わなかった」
ちなみに、アメリカ国内における成績について、米フォーブス誌が興行的には“大コケ”と報じたが、監督自身は映画の興行的な側面はあまり気にならないようだ。
「最初に言っておくけど、この映画についてはあまりに多くのことが書かれているので、僕はほとんど読んでいない(笑)。確かにアメリカでは大都市だけでヒットしていて、地域によって成績がまったく違う。アメリカの人々は、意外とオリジナル版を知らないんじゃないかと思う」。
「むしろ、世界中でこんなにヒットしていることのほうが不思議な気がするよ。僕の監督作中で一番のヒット作になった。でも、僕は映画を作っているだけで、映画を売っているわけじゃない(笑)。長い間、観てもらえる映画になれば、それが僕にとって一番のご褒美だ。何より不思議なのは、アメリカの批評家たちが大絶賛していることだよ。これまでの僕の映画の中で最高に褒められてる(笑)。どうしてこんなに絶賛されているのか、それがちょっと謎なんだよね」。
本作の製作中に、すでにフランク・ハーバートの名作SF「デューン 砂の惑星」の映画化作の監督に決定済み。次回作は「デューン」なのかと問うと、監督は穏やかな微笑みとともに「たぶん、そうなると思う」と答えた。『メッセージ』『ブレードランナー2049』と名作SF映画をたて続けに世に送り出したヴィルヌーヴ監督が、次は名作大河SF小説をどう映画化するのか。次回作からも目が離せない。