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カンボジアの“壮絶な過去といま”を映像で伝える取り組みとは

カンボジア・ボパナ視聴覚センターディレクター、チア・ソピアップ
カンボジア・ボパナ視聴覚センターディレクター、チア・ソピアップ

 山形国際ドキュメンタリー映画祭2017の東日本大震災をテーマにした部門「ともにある Cinema with Us 2017」で、記録アーカイブを通じた記録と継承を考えるシンポジウム「映像アーカイブと学び - カンボジア・ボパナ視聴覚センターの取り組みを例に」が行われ、同センターのディレクター、チア・ソピアップ、東北大学東北アジア研究センターの高倉浩樹教授、同部門プログラム・コーディネーターの小川直人、同映画祭・理事の藤岡朝子が出席した。

リティ・パン監督作品『消えた画(え) クメール・ルージュの真実』【映像】

 カンボジアはポル・ポト率いるクメール・ルージュ(カンボジア共産党)が独裁政権を築いていた1975 年~1979年、国民から娯楽や宗教を奪い、それまでの映画や写真などが容赦なく破棄された。その失われた視聴覚資料を国内外から収集してデジタル保存し、一般の人々が無料鑑賞できるようにと、映画監督のリティ・パンリティ・パニュ)が、政府のバックアップを得て2006年に共同設立したのがボパナ視聴覚センターだ。

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リティ・パン監督:
クメール・ルージュ時代にカンボジアを逃れ、フランスに亡命したリティ・パン監督。祖国の映画産業の発展と若手の育成などにも力を注ぐ一方で、制作活動も精力的に行っており、昨年の第17回東京フィルメックスでは、クメール・ルージュ時代を描いた『エグジール』が招待上映された。

 中でも最近の話題は、映像アーカイブを使ったクメール・ルージュ時代の歴史を学ぶ教育アプリの開発だ。ソピアップは「クメール・ルージュ時代に170万人が虐殺された結果、人口の70%が30歳以下。生存者の記憶を呼び覚まし、孫世代とのコミュニケーションを円滑化するためにも記憶の伝承は重要です。今後、国内の学校を巡回してアプリの活用をPRするのですが、実は日本が(カンボジアに次いで)2番目にダウンロード数が多いんですよ」と国内外の反響の大きさを語った。

歴史教育アプリ「Khmer Rouge History」:
クメール・ルージュ時代の歴史を学ぶ教育アプリ「Khmer Rouge History」のスクリーンショット

 日本でも、東日本大震災の記録や教訓を次世代へ伝えるべく国立国会図書館と総務省が関連文献を検索・活用できるポータルサイト「ひなぎく」を公開し、山形国際ドキュメンタリー映画祭でも東日本大震災の記録映画と作品資料を収集・保存・発信するプロジェクト「311ドキュメンタリーフィルム・アーカイブ」を実施するなど、各地で同様の取り組みが行われている。

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チア・ソピアップ
バポナ視聴覚センターの取り組みを説明するディレクター、チア・ソピアップ

 しかし小川いわく「書籍にまとめたりしている団体はあるが、多くが資料の整理がままならない状態ではないか。特に映画は権利や、同じデジタル撮影とはいえ記録方式が異なるなどの問題もあり、保存まではなかなか手が付けられていない」という。

シンポジウム
シンポジウムに参加した(写真右から)藤岡朝子、チア・ソピアップ、高倉浩樹教授、小川直人(山形市・山形美術館にて)。

 一方で映像アーカイブの公開にあたって、小川から「震災の映像を教育の現場で観せる際、子供には刺激が強すぎるのでやめた方がいいのではないか? という議論が起きる。ボパナ視聴覚センターでは、なんらかの配慮をしながら記憶の継承をしているのか?」という問いがあった。

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ABCなんて知らない
カンボジア若手短編集:1994年生まれのソク・チャンラドと1989年生まれのノム・パニット共同監督による『ABCなんて知らない』(C)BOPHANA CENTER

 これに対してソピアップは「“観たい”と言われれば観せないことはありませんが、刺激の強い映画の場合は夜遅い上映にするなど、プログラムを組む段階で配慮しています。日本の体験はわたしの理解をはるかに超えています。でも、映画のような場合でしたら、その芸術性を高めることで、良い理解を与えることもできるかもしれません」と答えた。

赤インク
カンボジア若手短編集:医学の道から映画制作に進んだリー・ポーレン監督『赤インク』

 ちなみにカンボジアでは映画を劇場公開する場合、政府の検閲を受ける必要があるが、ボパナ視聴覚センターのデータベースに関してはそれがないという。映像アーカイブの中には生存者の壮絶な体験談もあるが、それらも年齢関係なく視聴することができるという。同センターを訪問したことのある藤岡さんは「サンクチュアリみたいなところ。昔の怪奇映画なども鑑賞できるので、ストリートキッズが“やったー! タダだ!”と喜んで観ていた」と日本ではなかなか見られない光景に衝撃を受けたようだ。

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三輪
カンボジア若手短編集:クメール・ルージュ時代の強制結婚をテーマにした『三輪』(C)Anti Archive &Apsara Films

 さらに、同センターでは映像制作ワークショップを開催している。ただし「技術的な指導はするが、内容はコントロールしない」(ソピアップ)という方針を貫いており、ここから育った若い才能が今、世界へと羽ばたきはじめている。第30回東京国際映画祭CROSSCUT ASIA部門で上映される「カンボジア若手短編集」がまさにそれで、選ばれた4作品の中にはクメール・ルージュ時代の強制結婚を題材にした『三輪』(ニアン・カヴィッチ監督)もある。

20ドル
カンボジア若手短編集:20ドルの価値を考える『20ドル』

 高倉教授は「当事者たちのデータを使って、そこから歴史を考えていこうとしている。映画をつくるプロセスそのものが、これからの社会をつくるプロセスになるのではないか」と同センターの取り組みを評価した。

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 ソピアップは「われわれの施設は公開図書館ですので、国内だけでなく世界の人々に解放していきたいと思ってます。ただ、われわれは原料を集めているだけですので、それをどのように活用するかは個人に任せたい」と広く門戸を開けていることをアピールした。(取材・文:中山治美)

アプリ「Khmer Rouge History」はアンドロイド版(https://play.google.com/store/apps/details?id=org.bophana.krhistory&hl=ja
)、iOS版(https://itunes.apple.com/kh/app/khmer-rouge-history/id1262423973?mt=8)共に無料ダウンロード可能。
(※クメール語または英語に対応)

第30回東京国際映画祭は11月3日までTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか各会場で開催

●山形国際ドキュメンタリー映画祭2017
https://www.yidff.jp/home.html

●ボパナ視聴覚リソース・センター公式HP
http://bophana.org

●国立国会図書館東日本大震災アーカイブ「ひなぎく」
http://kn.ndl.go.jp/static/about?language=ja

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●東北大学アーカイブプロジェクト「みちのく震録伝(しんろくでん)」
http://shinrokuden.irides.tohoku.ac.jp

●3がつ11にちをわすれないためにセンター
http://recorder311.smt.jp

●「311ドキュメンタリーフィルム・アーカイブ」
http://www.yidff311docs.jp/?lng=jpn

●国際交流基金アジアセンター presents CROSSCUT ASIA # 04ネクスト!東南アジア カンボジア若手短編集
http://2017.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=175

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