高畑充希、違和感があった「まっすぐな役」に心境変化
NHKの連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(2016)で主演を務めた高畑充希と作を手掛けた西田征史。二人が再タッグを組んだ映画『泥棒役者』(11月18日公開)では、互いに「とにかく過酷な現場だった」と振り返る朝ドラを経験したことによって、見えてきたものはあったのだろうか。本作で久々の再会を果たした高畑と西田監督が大いに語り合った。
インタビューに先に現れた西田監督と対面するなり「わー、お久しぶりです!」とテンションが高くなる高畑。ほんの数秒だけでも、二人の厚い信頼関係が垣間見えたが、「実は、数回しか会ったことはないんですよ」と口を揃える。高畑は「朝ドラの撮影中、脚本家さんは次から次へと台本をあげなくてはいけないので、現場に来たくても時間がないですよね」と語りかけると、西田監督も「本当に時間はなくて」と苦笑いを浮かべるが、「でも主演女優さんの方がもっと大変だと思います」と互いの気持ちを慮る。
しかし、こうした「過酷な現場」は二人の間に特別な感情を生み出したという。高畑は「朝ドラの中で、最初から最後まで走り切らなければいけないのは主演と脚本家のような気がしていて、その意味では、西田さんにはどこか戦友みたいな気持ちを抱いていたんです。体力的につらくても『西田さんも頑張っているんだから』って自分に言い聞かせていました」と当時を振り返る。一方の西田監督も「僕も同じ感覚はありました。『とと姉ちゃん』を書いているときは、完全に(高畑演じた)常子に恋をしていましたし、『僕が書いたものを、高畑充希がどう演じてくれるんだろう』というのが執筆のモチベーションになっていたんです」と胸の内を明かす。
共に戦っていくなかで培われた信頼関係と、気づいた魅力。西田監督は「女優として素晴らしいことは以前からわかっていましたが、朝ドラでご一緒してその思いはさらに強くなったので、この映画にもぜひ出て欲しいとオファーしたんです」と語ると「表現力と、本当にそこにいるのかなと思わせてくれる生々しさが素晴らしいんです。しかもセリフを変えて生っぽい演技をする俳優さんはいますが、彼女の場合、一字一句脚本通りに演じるんです。与えられたものに対して、誠実に身体を通して形にしていくのってすごいことだと思うんです」と絶賛する。
高畑も「西田さんはとてもまっすぐな人で、やりたいと思っていることをしっかり筋を通してやられるので、周囲の人からすごく信頼されている。芸能界って浮つきがちな世界だと思うのですが、まっすぐ、まっとうにお仕事をされている西田さんを見ると、自分も真面目に頑張らなければと思うんです」と大きな影響を受けていることを明かした。
そんな高畑は、本作で丸山隆平演じる大貫はじめの恋人・美沙にふんしているが「西田さんの作品ってすごく温かい。その温かさを直球で表現したり、演じたりするのってすごく照れくさいものなのですが、西田さんも丸山さんはそれがすんなりできてしまう人。わたしは、どちらかというとそういう表現が苦手だったんですよね」とつぶやく。
しかし、続けて「でも朝ドラを経験してから、こうしたまっすぐな役のオファーをいただくことが多くなったんです。最初、わたしのなかではそういう役に違和感があって『できるのかな』という不安が大きかったのですが、今はまっすぐなことをまっすぐにやることがちょっとできるようになった気がしています」と自身の変化を述べる。
その変化は朝ドラを経験したことによって生じたことなのかを問うと「正直、朝ドラをやっているときって、日常に忙殺され、自分が何を得て何を学んで成長しているのかなんて考えている余裕もないんです。でも撮影が終わって、その後、何本か作品をやっていくうちに、すごく自分が変わったなって感じたんです。その一番大きなことが、まっすぐな役をいただいても、まっすぐ表現できるようになったことなんです。それは1年間、西田さんの脚本と向き合ったからなのかもしれませんね」とはにかむ。
こうした高畑の変化に、西田監督は「自分が書いたまっすぐなセリフって、演じる人によっては臭くなり過ぎたりするのですが、高畑充希が演じるとちょうどいいバランスになるんです。まっすぐな方向でも、ちょっと地に足がついたキャラクターに落とし込んでくれる。僕がちゃんと届けたい温度で届けてくれました」と、本作でも素晴らしい演技を披露した高畑に対して、満足そうな表情を浮かべていた。(取材・文・写真:磯部正和)