『泥棒役者』に見る俳優・丸山隆平の凄さ
NHKの連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(2016)の作を手がけ、『小野寺の弟・小野寺の姉』(2014)で初監督を務めた西田征史が、2006年に作・演出した舞台を自ら映画化した『泥棒役者』(11月18日公開)。コメディーでありながら、最後は胸がじんわり熱くなるハートウォーミングな本作は、主演の丸山隆平(関ジャニ∞)の役者としての秀逸さをとことん堪能できる作品に仕上がっている。
まず本作は、観客が感じるほのぼのとした印象とは裏腹に、演じる側にとっては、非常にハードルの高い要素をいくつも備えている。その一つは、物語のほとんどが豪邸の室内で展開していくこと。家の中というワンシチュエーションだと、どうしても役者の芝居は制限されてしまう。
また、ワンシチュエーション作品では役者同士の掛け合いの妙が最大の見どころになるが、今回、丸山との掛け合いのメインの相手となるのは大ベテランの市村正親。さらに、個性派キャスト陣とのだまし、だまされる会話劇の間の取り方など、これでもかというくらいコメディーセンスが試される脚本になっているのだ。
本作で、ついに単独映画初主演を果たした丸山だが、これまでドラマでは2012年の「O-PARTS オーパーツ」「ボーイズ・オン・ザ・ラン」、「地獄先生ぬ~べ~」(2014)、舞台では「ギルバート・グレイプ」(2011)、西田征史が作・演出を手がけた「BOB」(2012)、シェイクスピアの戯曲「マクベス」(2016)など主演作は数多い。
テレビドラマではどちらかというと、ちょっと気の弱い青年や、コミカルなキャラクターのイメージが強い丸山。しかし、舞台では驚くほど幅の広い難役を次々に演じているのが印象的だ。そもそもドラマに先駆けて、単独初主演となった作品が舞台の「ギルバート・グレイプ」だったというのは、アイドルとしては珍しいケース。映画版ではジョニー・デップの名演が記憶に残るタイトルロールをナイーヴに演じきり、俳優としてのポテンシャルを見せつけた。
「BOB」では3人芝居、しかも3人がそれぞれ一人二役という難易度の高いコメディーの舞台を終始出ずっぱりの演技で支えて、新たな魅力を披露。「マクベス」では一転して、野心、嫉妬、愛、絶望、狂気など、あらゆる感情を表現しながら、破滅していく若き新しいマクベス像を体現した。
それぞれまったく異なるキャラクターながら、丸山が演じてきた役に共通しているのは、心の中に表には見せない葛藤を抱えている人物であるという点だろう。強い男、かっこいい男といった典型的なヒーロータイプとは一線を画す、どこか繊細で弱さを秘めた、人間味あふれるアンチヒーローが不思議なほどにハマるのだ。
そんな丸山の魅力を熟知している西田監督だけに、映画『泥棒役者』の主人公・大貫はじめは、まさに丸山のために書かれたと言いたくなるほど、丸山にぴったりのキャラクターだ。最愛の恋人の誕生日当日、怖い先輩の命令を断り切れず、嫌々忍び込んだ豪邸では、家主の絵本作家、訪問してきた新人編集者、セールスマンとバッタリ遭遇し、なぜか彼らから、編集者、絵本作家、豪邸の主人……とそれぞれ別人に間違えられてしまう。
泥棒という正体を隠すために、その勘違いされた人物を次々に演じるハメになる大貫はじめという男のおかしさと哀しさ。ほんわかした明るさの中ににじみ出るペーソスは、丸山にしかない独特の魅力ともいうべきもので、キャラクターが抱えるせつない背景をもしみじみと伝えてくれる。愛嬌のあるまろやかな笑顔で観る者を和ませながら、有無を言わせず感情移入させてしまう役者、丸山隆平の真骨頂がここにある。(石塚圭子)