インスタでキャスティング!全編iPhone撮影監督ならでは
全編iPhoneで撮影し話題となった映画『タンジェリン』で世界的に注目を浴びたショーン・ベイカー監督が、待望の新作『ザ・フロリダ・プロジェクト(原題) / The Florida Project』について、11月29日(現地時間)、ニューヨークの米映像博物館で語った。
本作は、フロリダのディズニーワールドの外れにあるモーテルで暮らすおてんばな6歳の少女ムーニー(ブルックリン・プリンス)と、犯罪歴のある母親ヘイリー(ブリア・ヴィナイト)とのひと夏の体験を鮮明に描いたもの。ウィレム・デフォーが、モーテルの管理人ボビーを演じた。
製作経緯についてベイカー監督は、「『タンジェリン』で共同執筆したクリス・バーゴッチが、フロリダのディズニーワールドという子供にとっては魔法の国であるはずの場所の外れにあるモーテルで暮らす子供たち、という悲しい皮肉を記したニュース記事を紹介してくれたんだ。そんなことがディズニーワールドの郊外で起きているならば、どこにでも起きる可能性があると思ったね。フロリダ州のオーランドの郊外は、リーマン・ショックの影響の大きかった地域で、モーテルで暮らしている人々や小さな会社や店を経営している人々は、(10年近く経った今でも)あの不況の影響を受けたままなんだ」と語り、子供の視点で描くことで、その現状を浮き彫りにできると考えたそうだ。
全く予想のつかない構成で物語が進んでいくことについて、「僕は今作を通して観客が(映画内の)子供たちと夏を共に過ごしている感覚になってほしかったんだ。もちろん、構成はあるものの、(それは観客にとって)明確ではなく、セリフも曖昧だからわかりにくい。でも、観客は多くの瞬間を(映画内の)子供たちと動き回ったり、考えたりしながら過ごしている感覚になる。だから、もし意図的に次に進めようとしているシーンに感じられたら、あえてそのシーンを省いていったんだ。それは、観客に僕らが次にやろうとしている方向を察知してほしくなかったからだよ」と明かす。その結果、見事に自然な流れを生んでいる。
俳優のキャスティングについては、「ウィレムは、長年の経験と卓越した演技力を持って参加してくれたよ。彼との仕事は、映画初出演の俳優や子役との仕事とは全く異なったものになったね。彼はとても忍耐強く、サポートもしてくれ、他の俳優陣や我々スタッフを楽にさせてくれた。母親ヘイリー役のブリアも『説教や小言を言わないウィレムの言葉でのサポートに励まされた』と語っていたくらいだよ。ブリアは今作が映画初出演で、演技の経験さえもなかったんだ」とベイカー監督。なんと彼女はInstagramで発掘したそうで、「『タンジェリン』でも助演の役をYouTubeやVineなどで、偶然に見つけていたんだ。だから、今作でも配役には柔軟な考え方を持って臨んでいたよ」と今時らしい驚きのキャスティング法を明かした。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)