劇場版『名探偵コナン』が国民的アニメ映画な理由
コラム
2月9日、日本テレビ系「金曜ロードSHOW!」で『名探偵コナン ベイカー街(ストリート)の亡霊』(2002)が放送される。劇場版『名探偵コナン』は20年を超えても高い人気を誇るシリーズで、昨年公開の映画第21作『名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)』は興行収入68億9,000万円と過去最高を記録した。この実績は日本を代表する映画シリーズといっても過言ではない。劇場版『名探偵コナン』はなぜここまでヒットするのだろうか。(文:藤津亮太)
『名探偵コナン』の原作は青山剛昌。1994年から週刊少年サンデーで連載が始まった。1996年にテレビアニメが始まり、その翌年から劇場版シリーズも始まった。2009年以降はすべて30億円以上のヒットとなっており、それ以前もほとんどの作品が20億円を超えている。長い人気の作品になった結果、現在では小学生から社会人まで男女を問わない幅広い層が劇場に足を運んでいる。これは国民的アニメと呼ぶにふさわしい状況だ。
劇場版『名探偵コナン』がここまで人気を集めているのは、4つの理由がある。第1の理由は「一見さんに優しい」。劇場版『名探偵コナン』は冒頭で、作品の設定を説明してから本編に入る。そこでは高校生探偵・工藤新一がどうして小学生のコナンになってしまったのか、という一番根本のところを手際よく説明し、さらにコナンが使う道具や準レギュラーなど、映画を観ておく上で知っていたほうがいい情報も一気に紹介する。シリーズが長期化するとどうしても一見さんが入りづらくなる。そういう壁をなるべく低くして、初見の子どもでも楽しめるようになっているのだ。
第2の理由は「ミステリー」。テレビでお馴染みのキャラクターたちを使って劇場版を作る際に「何を描くか」は大きな問題だ。ある程度ドラマチックでなくては映画を観た満足感が得られないが、かといってそのために主人公キャラクターが成長したり、メインキャラクターの人間関係が大きく変わってしまっては困る。その点でミステリーは、事件に関わるゲストキャラクターがドラマを抱えており、主人公はその解決という形でストーリーに関与する、またストーリーが「事件の解決」という目的に向かって強力に牽引されるため、観客は、何を観ればいいのか迷うことがない。
第3の理由は「アクション」。劇場版『名探偵コナン』といえば「ド派手な爆発シーン」を思い出す人も多いだろう。昨年は冒頭のアクションでテレビ局をひとつ破壊していた。大爆発に限らず、映画館の大画面と大音量を活かした派手なアクションシーンは各作品に必ず用意されており。これが映画を観た後の満足感に繋がっている。
第4の理由は「ロマンス」。原作、テレビ、そして劇場版とメディアは変わっても『名探偵コナン』の変わらない魅力のひとつに、工藤新一とヒロイン毛利蘭によるラブコメ要素がある。年1回のペースで劇場版を公開している人気アニメシリーズは多いが、実は恋愛要素がしっかり入っているのは『名探偵コナン』だけ。『名探偵コナン』が中学生以上の観客に訴求しているのはここがポイントと思われる。
この「アクション」と「ロマンス」の共存が幅広い観客層の動員を支えているのだ。ヒットを支えるこの4つの基本的な要素の上に、各作ごとの趣向が盛り込まれて劇場版『名探偵コナン』は出来上がっているのである。(数字は興行通信社、文化通信社、配給元など調べ)