いよいよ卒業!お世話になった人に何を伝えればいい?映画からヒントをいただこう!
3月は卒業の季節。お世話になった人に、感謝の気持ちを伝えたいけど、うまく言えないという人にヒントを与えてくれそうな映画をチョイスした。(文:桑原恵美子)
恩師に:わたしたちがあなたのシンフォニーです
『陽のあたる教室』 (1995)
1960年代のアメリカ。作曲の時間欲しさに教師の道を選んだグレン(リチャード・ドレイファス)は、クラッシック音楽に興味を持たない生徒たちに最初は失望するが、やがて次々に型破りな方法を編み出し、音楽の素晴らしさを教えることに成功する。一方、結婚後に生まれ、熱愛するサックスプレーヤーのジョン・コルトレーンから名をとった息子は、生まれつき耳が聞こえなかった。
音楽教育に情熱を傾けるグレンと、成長した息子の間には深い溝が生まれるが、グレンは音や光、手話で彼に音楽の素晴らしさを伝えようと試みる。そして30年間にわたる教師生活最後の日、校舎を去ろうとする間際、講堂から聞こえる音楽に驚いて中に入ると、そこにはかつての教え子たちが集結していた。今は知事となった元・教え子が壇上から彼に語りかける。
「先生は、作曲家として富や名声を得たいという夢もあったでしょう。でもそれができなかったから人生を誤ったとお考えなら、大きな間違いです」「見て下さい、あなたはここにいる全員の人生に触れ、一人一人をより良い人間に育てたのです。わたしたちがあなたのシンフォニーです」。最後の、グレンがひそかに完成させていたシンフォニーを、元・生徒全員で演奏するシーンは圧巻。何度繰り返して観ても、涙があふれる。
仲間や同志に:「感謝」という言葉以上の言葉が見つからない
『舟を編む』(2013)
大学院の言語学部を出て出版社に勤めるもコミュニケーション能力が超低く、古書だけが友達で変人扱いされていた営業マン馬締(松田龍平)。彼は定年退職を控えた辞書編集者・荒木(小林薫)にスカウトされ、辞書編集部に異動。そこで、監修担当の国語学者・松本(加藤剛)の「今を生きる現代人のための、新しい辞書を目指しましょう」という熱い言葉を聞き、感動する。
さまざまな困難を乗り越え、15年後ついに完成した辞書。その披露パーティーで、馬締は完成を見ることなく亡くなった松本が、荒木に宛てた手紙を渡される。「君が連れてきた馬締くんのおかげで、わたしは再び辞書の世界に邁進することができたのです」「感謝という言葉以上の言葉がないですが、あの世があるなら、あの世で用例採集(言葉集め)するつもりです」。
二十数万語に及ぶ言葉の用例採集をなしとげた間柄だから伝わる、「感謝」という言葉の重み。辞書を編む人々の愛と喜びが、映画を観終わった後もさざ波のように心を震わせる。
悪友に:間違いなく俺たち、今回のことからたくさんのことを学んだよな
『宇宙人ポール』(2010)
SFオタクのイギリス人青年2人が、伝説のUFOスポットを巡る旅をエンジョイ中に、ポールと名乗る異星人と遭遇する(『E.T.』に出てくる異星人そっくりなのは、彼が映画製作時スピルバーグにアドバイスしたから)。地球で遭難してから何十年間もアメリカ政府にかくまわれていたが、自分が利用されていることに気づき故郷に帰ろうと決意したポールを、成り行きで指定場所まで連れて行くことになった2人。
そんな彼らを政府の謎の組織が追いかける。ポールの「息を止めている間だけ透明になれる」という技など、ゆるい笑いがまんべんなくちりばめられた逃走劇が楽しい。だがゲイに間違えられてもくじけないほど強いSF愛で結ばれた主人公の2人や、謎の男とポールとの友情(「ポールは俺たち夫婦の仲人なんだ」)に心打たれていくうち、とことん“いいやつ”なポールが、どんどんかっこよく見えてくる(E.T.そっくりなのに!)。
「間違いなく俺たち、今回のことからたくさんのことを学んだよな」というのは、宇宙船に乗り込む前のポールの男前なセリフ。相手との間にうまく整理できないことがいろいろ残っているけれど、でも感謝だけは伝えたい。そんな状況にぴったりの言葉だ。
長年連れ添った夫に:母はわたしを誇りに思うわ。あなたみたいな人と添い遂げることができて
『大統領の執事の涙』 (2013)
長く添い遂げた夫婦にも、いつか別れの時は来る。それを予感した時、どんな感謝の言葉を伝えればいいのか。奴隷の息子に生まれながら、ホテル勤めで磨き上げた優雅なマナーと教養を武器に、ホワイトハウスの執事として7代の大統領に使えてきたセシル・ゲインズ(フォレスト・ウィテカー)。
だが、「社会を変えなければ」と過激派に加わる長男に、「父が白人の従者であることが恥ずかしい」と告げられ、激怒して絶縁する。
年老いてもまだ息子を受け入れることのできない夫に、妻は語る。「母はわたしを誇りに思うわ。あなたみたいな素晴らしい人と最後まで添い遂げることができたことを」。それを聞いて泣きくずれるセシル。「わたしはあなたの生き方が素晴らしいと思う」と言うだけでは癒しきれないほど深かった、セシルの心の傷。それを誰よりも知る妻だから言えた、最高の感謝の言葉だった。
個性的な友人に:あなたが普通じゃなかったから、世界はこんなに素晴らしい
『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(2014)
第二次世界大戦時、解読不可能と言われたドイツ軍の暗号「エニグマ」に挑んだ、天才数学者アラン・チューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)。同性愛者で(今でいう)アスペルガー症候群だった彼は、「人と違う」ことに悩み続けていた。やがて彼の暗号解読への情熱が実り、コンピューターの原型ともいわれるマシンも完成させて、暗号解読に成功。このことでドイツ軍との情報戦に勝利。そのために終戦が2年ほど早まり、約1,400万人の命が失われずにすんだと試算されている。
終戦後、同性愛者であることで罪に問われ、再び「なぜ自分は人と違うのか」と苦しむ隠遁(いんとん)の日々を送る彼のもとを訪れた元婚約者は、こう告げる。「わたしは今日、切符を買ってここに来た。あなたがいなかったら破壊されていたはずの駅で、あなたがいなかったら死んでいたはずの駅員から。あなたが普通じゃなかったからできたことなのよ。あなたが普通じゃなかったから、世界はこんなに素晴らしい」。
ちなみに本作でアカデミー賞脚色賞を受賞したグレアム・ムーアは、変わり者といじめられた自身の過去から、「変人でもいいんだ」と伝えたくてこの脚本を書いたという。