『リメンバー・ミー』死者の国は今も建設中!驚くべき構造
ディズニー/ピクサー映画『リメンバー・ミー』の美術を担当したハーレイ・ジェサップ(プロダクションデザイナー)とクリス・バーナルディ(セットアーティスト)が取材に応じ、1年に1度だけ亡くなった家族たちと会えるというメキシコの祝祭「死者の日」に、主人公の少年ミゲルが足を踏み入れる“死者の国”をどのように作り上げていったのかを明かした。
“死者の国”のアイデアは複数回行なったメキシコへのリサーチ旅行からもたらされたもので、インスピレーションの源となったのが、世界遺産にもなっているメキシコ中央部の美しい都市グアナファトだ。ハーレイが「そこは幾層にも重なった鮮明な色の都市で、狭い階段や橋があふれていて、急な斜面の丘に垂直的な町づくりがされており、その下にはトンネルが張りめぐらされています」と説明する通りの壮観な都市で、それをもっともっと……と縦に積み上げて塔にしたものが“死者の国”になった。
クリスは「“死者の国”では歴史を垂直方向で認識できるようになっています。つまり下の層はずっとずっと昔に作られたもので、人々が死んで“死者の国”の住人が増え続けるたびに、縦方向に建造が進んでいるという設定です。だから、塔の一番上は常に建築中なんです」と語り、ハーレイも「塔の一番下にはアステカ文明やマヤ文明のピラミッドをベースにした古代の構造物があり、その上にスペインの植民地時代の建築がきて、ビクトリア朝時代、メキシコ革命時代と続いてようやく20世紀中盤になり、一番上にあるクレーンで建設中の部分が現代となっています」と解説する。
この理論が映画本編で説明されることはないが、彼らが細部までこだわり抜いて作り上げたからこそ、“死者の国”がリアルに実際に存在する世界のように感じられる。ハーレイは「観客の皆さんが気付いてくれたらいいですね。また、こういう描き方をしたことで、この世界の説得力が増していたらうれしいです。わたしたちは何を創作するにせよ、独断的にならないよう気を付けています。全てをメキシコの歴史や文化をベースに描くこと、それが大切でした」とピクサーで美術を手掛ける上でのモットーを明かした。
また、メキシコの首都メキシコシティは、水に囲まれたアステカの古代都市テノチティトランがあった場所に作られた都市だったため、“死者の国”の一番下の部分は水辺になっている。そこは“生者の国”の人々に忘れられそうになっているガイコツたちが暮らしている場所で(完全に忘れ去られると“死者の国”からも消えてしまう)、華やかな上層部とは対照的だ。ハーレイは「あれはわたしのお気に入りのセットの一つです。あの場所にはある種の美しさがあり、わたしたちはこのセットである種の痛切な悲しさを描こうとしました」と振り返ったが、その狙いは見事に当たった。
本作では“死者の国”のみならず、“生者の国”、つまりリアルなメキシコの美しさもしっかりと描かれている。中でも墓地を無数のキャンドルとマリーゴールドの花びらで埋め尽くした「死者の日」の美しさは圧巻だ。ハーレイは「わたしたちが墓地のセットを作っていると、ほかのスタッフから『ちょっとこのキャンドルの数はやりすぎじゃないの?』と言われましたが、答えは『ノー』です。メキシコの墓地で見たあのシーンは実に荘厳でした。何千本ものキャンドルがあり、マリーゴールドで実に美しく装飾されていました」と笑った。(編集部・市川遥)
映画『リメンバー・ミー』は公開中