是枝監督『誰も知らない』も鑑賞済み!天才子役誕生の裏側が明らかに
名優ウィレム・デフォーが第90回アカデミー賞助演男優賞にノミネートされた映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』のショーン・ベイカー監督が9日、新宿バルト9で行われたジャパンプレミアティーチイン付き特別試写会に来場、社会の片隅で暮らす母子を描き出した珠玉の本作を鑑賞した観客から多くの絶賛の声が寄せられた。
パステルカラーに彩られた世界観!『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』【映像】
全編iPhoneのみで撮影された『タンジェリン』で世界中を驚かせた新鋭ベイカー監督が、今度は35ミリフィルムで撮影。フロリダ・ディズニーワールドのきらびやかさと裏腹に、その観光客を見込んだ周辺のモーテルはすっかり寂れてしまい、普通のアパートを借りられない人々の避難場所となっていた。そんな安モーテルでその日暮らしの生活を送る6歳の少女ムーニーと、家なし・職なしでありながらも娘への愛を惜しみなく注ぐ母親ヘイリー、そして彼らに振り回されながらも温かく見守る管理人らによる物語が展開される。
本作のクライマックスで展開される“魔法のような85秒”は世界中の観客の胸を締め付け、数々の称賛の声が寄せられてきた。それはこの日の観客も同様だったようで、ひとりの男性客が「ラストシーンに心が震えました。そしてなぜか手が震えてしまいました。この映画が激しい感情をもたらしてくれました」と感想を語ると、ベイカー監督も思わず笑顔に。
そして本作の主人公ムーニーを演じたブルックリン・キンバリー・プリンスをはじめとした子どもたちの演技が、本作をみずみずしくも生き生きとしたものにしている。ベイカー監督も「この映画のエネルギーは子どもたちがもたらしてくれたもの。お客さんは、ムーニーたちと“ちびっこギャング”の一員となって。彼らと一緒にアドベンチャーに参加しているような気持ちになってほしかった」と振り返る。
子どもたちから生き生きとした演技を引き出したベイカー監督に、観客から「ズバリ是枝裕和監督の『誰も知らない』は観ましたか?」と指摘される一幕も。それには「もちろん知っています! すばらしい子役の演技が観られる作品ですから、この作品を撮る前にもあらためて見直したんですよ。それからケン・ローチの『ケス』、フランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』なども参考にしたんですが、『誰も知らない』はその中の一本だったんです」と述懐。
さらに「この年代の子供たちと仕事をしたことがなかったので、アクティングコーチに入ってもらったんですが、その方は『基礎を作らないとアドリブは無理』と言うんです。是枝監督は子役に台本を渡さずに、口移しで内容を伝えるというのは有名ですが、今回はしっかりと台本を渡したんですよ」と切り出したベイカー監督は、「とにかく子どもたちが楽しんでもらえるような現場を心がけたんで、彼らが仕事と感じないように、ゲーム仕立てで参加してもらったんです」とその演出の裏側を明かした。(取材・文:壬生智裕)
映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』は5月12日より新宿バルト9ほか全国公開