菅田将暉の限界は「ぶっ倒れるまで」デビュー10周年の心境
いまや若手俳優としてぶっちぎりの存在となり、作詞・作曲を手がけるアーティストとしても「俳優の片手間」の枠を超えて多くの支持を集める菅田将暉が、俳優デビュー10周年を前に現在の心境を明かした。
王道の少女漫画を実写映画化した『となりの怪物くん』(公開中)に出演するという意表を突いた(?)最新作も話題の菅田は2009年、16歳で俳優として活動を開始する。近く10周年を迎えるが、じつはこの区切りとなる年を「デビュー当時から節目のひとつとして視野に入れていた」というから驚く。
その理由はデビュー作「仮面ライダーW(ダブル)」(2009)にある。ともに主人公を演じた桐山漣は当時24歳。現在の菅田と同年代で「僕はいま、あのときの漣くんくらいの年齢なんだなって。漣くんは僕の8つ年上。それで仮面ライダーを観る世代は、ちょうど僕の8つほど年下。当時漣くんはとてもお兄さんに見えて僕の目には完全にヒーローでした。この番組を観る子どもたちにとって、ヒーローがこの自分でいいのかな? と考えていました」と振り返り、それをきっかけに“10年先”を意識し続けてきたそう。
その後の俳優としての快進撃はご存じの通り。いまや音楽の世界でも確かな足跡を刻み、老舗の深夜ラジオ番組「オールナイトニッポン」では軽快なトークを展開するなど、どんどん守備範囲を広げている。どんだけ働き者? と思うが、本人は「時間が全然足りないです」と苦笑い。「やり残したことは死ぬほどある」らしい。俳優業ではスケジュールの都合で受けられなかった映画やドラマに思いを馳せ、プライベートでは「海外旅行に一人で行ってみたいとか、あそこのラーメン屋、食べてみたかったのにつぶれちゃったなとか(笑)」と社会へ出てから自分のために時間を使うことの難しさも実感している。
それも仕方がないのかもしれない。いま多くの作り手が菅田将暉を求めているのは確かだ。ただ彼にとって俳優・菅田将暉は「僕自身とはちょっと違う“表現”なんですよ」と言うが、その真意とはなにか? ここで、3月の日本アカデミー賞授賞式、『あゝ、荒野 前篇』で最優秀主演男優賞を受賞したときの、どう喜んでいいのかわからず戸惑っているかのような表情で「今日は菅田将暉としてすごくうれしい」と言った場面が思い出される。彼が菅田将暉として存在するのはインタビューか舞台あいさつやバラエティー番組に出たときくらいで、「他は役名としてですから、菅田将暉がどう思うかなんてどうでもいい。でもあの瞬間は、それこそこの10年を経ての受賞で。ああ自分がやってきたことは間違いじゃなかったんだなと思ったんです」としみじみと思い返す。
それでももちろんそこは、彼のゴールではない。最新作『となりの怪物くん』でもたいした暴れっぷりを見せつけながら、それでいてキラキラとしていて目が離せない。きっと今後も、次々と彼の新作が発表されるはずだが、「人間って意外と丈夫なんです。去年人間ドックに行ったらオールAでしたから。ピカピカやん! と(笑)。一回ぶっ倒れたら考えようかな。でも、ぶっ倒れそう……と思って立ち止まるのは、もったいないですよね」とさらっと言う姿が印象的。心の底には迷いや不安があるのかもしれないが、ある決意をした人間の潔ささえ漂い、とても格好よかった。(取材・文:浅見祥子)