ドキュメンタリー映画製作のカリスマが語る作品選定の基準とは
製作者であり、エンターテインメント業界における女性経営者のパイオニア的存在であるシーラ・ネヴィンスと、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞の受賞監督であるローラ・ポイトラスが、4月28日(現地時間)、ニューヨークのSVAシアターで行われたトライベッカ映画祭(17th TFF)開催のトークイベントで対談した。
2004年からHBOドキュメンタリー・フィルムズの社長を務め、1,000以上の作品を手掛け、エミー賞やアカデミー賞に多数ノミネート・受賞を経験してきたシーラ。一方、ポイトラス監督は、映画『シチズンフォー スノーデンの暴露』でアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞し、その後も社会派の作品を手掛けている。
製作する作品の選定基準について、恋愛関係と同じと語るシーラは、「その映画の題材に情熱を感じ、それと同様のエネルギーを持つアイデアを抱きしめる(受け入れる)ことができたら、製作をすることになるわ。そのアイデアがネガティブな内容でも、ポジティブな内容のものでも惹かれるわね。その(惹かれていく)感情を観客に伝えたいと思っているの」と明かす。そうした情熱が、数々の秀作ドキュメンタリーを生んできたのだろう。
だが、エンターテインメントの世界に入った当初は、いつか舞台監督をしたいと思っていたそうで、「わたしが大学院を卒業した1960年代には、女性にはろくな仕事がなかったの。そんな中、HBOに特別な仕事があることを知ったのよ」とシーラ。それがドキュメンタリーの世界だった。「当時はチャーチル元首相のようなお堅い政治家のドキュメンタリーしか製作されていなかったけれど、わたしは普通の人々にドラマを見いだしていったの。舞台では、普通の人々を描いていることが多く、ごくまれにしか有名人の舞台が手掛けられていなかったわ。だから、自身の会社を通して、すでに出来上がっていた(政治、経済などの)知的なドキュメンタリーの形態から、普通の人々を描くドキュメンタリーの形態に変えていったのよ」とキャリアを振り返った。その後の彼女は、HBOドキュメンタリーで大きな貢献をしている。
一方、ポイトラス監督は「いつも、何か深く考えさせられることに興味を持っている」と語る。「今は、主にドキュメンタリーや短編映画の製作資金を提供するフィールド・オブ・ビジョンという会社を、シャーロット・クックと共同で立ち上げたの。その会社で製作された作品が、このトライベッカ映画祭にも出品されているわ。監督の仕事以外での、今のわたしの情熱プロジェクトでもあるわ」と話し、若手のフィルムメイカーへ良き師のような存在ではなく、同僚フィルムメイカーとして手助けしているだけであると説明した。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)