鮮烈なトラウマ描写!『ビューティフル・デイ』リン・ラムジー監督、セリフに頼らない映画表現へのこだわり
映画『少年は残酷な弓を射る』で知られるリン・ラムジー監督が、第70回カンヌ国際映画祭で男優賞と脚本賞の2冠に輝いた新作スリラー『ビューティフル・デイ』を引っ提げて来日し、説明的なセリフは排し、映像と音響という非常に映画的な表現で撮り上げた同作について語った。
主人公は、売春のために人身売買される少女たちを助け、その報酬で暮らしている退役軍人のジョー(ホアキン・フェニックス)。アメリカ人作家ジョナサン・エイムズの小説を原作にしているが、もともと脚本はダメ元で書き始めたという。「本当に映画にできるのかどうかはわからなかった。第1稿はギリシャの島で火山を見ながら(笑)4週間で書いたんだけど、ホアキンが参加することになって全てがすごい速さで進んでいったの」。
ラムジー監督は複雑で暴力に満ちたジョーの過去を、説明的なセリフに頼ることなく鮮烈な映像と音響で見事に伝えている。「話されないこと、表情、余白といったものは、20行のセリフよりもキャラクターを表現できると思う」というラムジー監督は、「長々としたフラッシュバックを使うのが好きではなくて。その中でキャラクターの物語を語ってしまうというのがね。それはやりすぎで、わたしは必要なのはほんの断片なんだと思う。実際に人間の心が働くように、彼のトラウマの物語を見せたかった。でも次の映画ではもっとセリフを使って、全く違った表現にしてみようかな」と笑った。
ホアキンが撮影の7週間も前にクルーに合流してくれたため、ラムジー監督は全てのシーンについて彼とディスカッションをしてジョーというキャラクターに血肉を与えていくことができたそう。また、非常に短い撮影期間だったため、脚本の段階から撮影監督と話し合ってビジュアルイメージを明確にし、「音楽も撮影と同時進行でやりたい。音楽というのはカットと一体のものだから」という信念を持つラムジー監督は、音楽を担当したレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドとも初期の段階から共に作業したと明かした。
そうして出来上がったのは、大スクリーン&いい音響で鑑賞してこそ最大限の効果と魅力を発揮するまさに“映画館で観るべき映画”だ。ラムジー監督は「わたしの映画は大スクリーンで鑑賞してほしい。今は映画館で上映されることなく直でストリーミングということも多く、難しくなってきているけど……。でもわたしには、映画にはそれ以上の物があると思う。わたしにとっての映画はバーチャル・リアリティ。だから、没入できる特別な空間で観られるべきだと思う。映画館で上映されるべき映画というものがあると思う。映画館でやっているのはスーパーヒーロー映画とかスペクタルな映画ばかりということだと、とても悲しい世界になると思う。闘い続けていなかくちゃね」と映画監督としての気概を見せていた。(編集部・市川遥)
映画『ビューティフル・デイ』は公開中