『ニンジャバットマン』荒唐無稽を実現する神風動画アニメの魅力
バットマンやジョーカーらDCコミックの人気キャラクターが戦国時代の日本へタイムスリップするアニメーション映画『ニンジャバットマン』(公開中)。荒唐無稽でありながら、カッコよさとのバランスを保った独創的な作品に仕上がっている。本作でアニメーションを手掛けたのは、アニメ「ポプテピピック」などの神風動画。そのアニメーション表現に着目して、作品の魅力を紹介する。
躍動感あふれるタイムスリップ表現!『ニンジャバットマン』本編冒頭映像
現代の犯罪都市ゴッサムシティからタイムスリップしたバットマンが、ジョーカーら悪党の暴挙を止めるべく激闘を繰り広げる本作。バットマンという既存のキャラクターを生かして、いかに新しいものが生み出せるのか。『ニンジャバットマン』には、バットマンがタイムスリップするという着想もさることながら、絵作りの点で今までにないことに挑戦しようという意思がひしひしと感じられる。戦国時代の日本を舞台に、現代から迷い込んだバットマンたちとジョーカーたちが死闘を繰り広げる本作では、タイムスリップの演出や戦闘シーンのアクションなど、アニメーション表現が重要な役割を担っている。
たとえばバットマンが時空に飲み込まれタイムスリップする冒頭部分。このゴッサムシティにある建物そのものが変形していくという複雑な動きのある場面では、アニメーションによってわかりやすく、かつ躍動感ある動きを付けるために試行錯誤を重ねた。その結果、遠心力を感じさせるような演出を採用するという、絵コンテにはなかったCGアニメーションの力を最大限に引き出す絵作りが採用された。
続くバットマンが戦国時代の日本へとタイムスリップした後のシーンでは、DCコミック的なアメコミ調から和風なテイストのイメージに変化する。とりわけ空の模様は、バットマン視点で異世界へやってきたのだということが表現されていて、青海波と呼ばれる波を日本的に意匠化した図案が印象的に用いられている。そしてバットマンが戦う決意をした後には、彼が時代に馴染んだことを表現するため写実的な情景へと変化するなど、背景の変化によって心情やドラマを表現。もちろん空の模様、雲や煙の形を平面的に表現すると、CGのキャラクターと合わせるのは難しくなるが、本作では浮世絵のようなイメージが作品に独特な雰囲気を与えている。
また、戦国時代という設定ながらも、そこは架空の世界。登場するジョーカーの城や城下町の街並み、細かい小物に至るまで、イメージを形にするためにデザインに起こしていく必要がある。本作では、作品の感触をアメコミ的&浮世絵的にするためにすべてにフォーカスが当たるように表現したいという監督の意思のもと、細かな部分まで作りこまれている。
ほかにもバットマンがジョーカーの城へ坂を登っていく場面には注目だ。カットを分割せず一つの画面で、手前からバットモービルが疾走する様子と遠景の城の姿を共に長回しで見せる躍動感あふれるシーン。いかに城を印象付けつつ、躍動感を減じさせないかに腐心したという。道の広さや城下町の様子、山の大きさ、明暗や色彩など、絵的に何を見せたいかを重視して、修正を重ねていくなかでようやく制作陣の納得いくものが完成した。
アメコミ的でありながら日本的でもあるという独自の世界観を持つ本作。そんな『ニンジャバットマン』は、コメディーからシリアスなものまで、幅広く手掛けてきた神風動画の集大成とも言える作品だ。破天荒な展開をいかにカッコよく見せられるか。そのことを徹底的に追求したこだわりが堪能できる本作で、これまでにない新しい「バットマン」が誕生した。(編集部・大内啓輔)