是枝監督、カンヌは「全てが真剣勝負」一歩間違えば立ち上がれないくらいに叩かれる
最新作『万引き家族』で、第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門の最高賞となるパルムドールを受賞した是枝裕和監督。連日、取材攻勢が続く中でインタビューに応じ、本作の誕生秘話、さらにはカンヌ映画祭の裏に潜むシビアな現実についても赤裸々に語った。
本作は、万引きを重ねる一家の姿を通して、人と人との“真”のつながりとは何かを問いかける人間ドラマ。高層ビルの谷間に取り残された一軒家を舞台に、息子・翔太(城桧吏)と共謀して万引きを重ねる父・治(リリー・フランキー)、その妻・信代(安藤サクラ)、信代の妹・亜紀(松岡茉優)、祖母・初枝(樹木希林)、そして、ひょんなことから一家と一緒にくらすことになった幼い少女・ゆり(佐々木みゆ)らの人間模様を描く。
是枝監督の発想の源は“違和感”だという。そもそも「血縁関係でなく“犯罪”でつながっている家族を描いてみたい」とプロットを書き始めたとき、偶然、年金詐欺のニュースが流れてきた。「死亡届を出さずに、親の年金をもらい続けていたことが僕の心に残り、ある『違和感』を覚えたんですね。世の中から叩かれているけれど、今、見えているものの向こうに、何か別のものがあるんじゃないかと」。その思いをプロットに託し、本作の脚本が完成した。
それにしても、是枝監督はカンヌに愛されている。もともとベネチア国際映画祭で『幻の光』(1995)が高い評価を得たことから注目され、昨年は『三度目の殺人』が22年ぶりに同映画祭のコンペティション部門に出品されたが、今年『万引き家族』はベネチアではなくで再びカンヌへ。「カンヌは行きたいと思って行けるものではないし、仮にカンヌに合わせて自分をチューニングしてもうまくいかない。あくまでも選ばれて行くものなので」と話す是枝監督。
「ただ1つ言えるのは、カンヌはとても厳しい場所。審査員、バイヤーはもとより、観客も本気で映画と向き合っているので、監督にとっても、俳優にとっても、作品にとっても、真剣勝負。一歩間違えば、立ち上がれないくらいに叩かれるので、中途半端なものは持っていけない」と吐露。さらに、「スタンディングオベーションも儀礼的なところがあるので、ぶっちゃけ全員受けるんです。でも、それが本気なのか、お約束なのかは、現場にいる本人にはわかる」とシビアな現実を明かした。
インタビューに応じたこの日は、母校であり、教授も務める早稲田大学で開講されている講義「マスターズ・オブ・シネマ 映画のすべて」に松岡と出席。学生たちと語らう中で、自身がパルムドールへたどり着くまでの歴史に思いをめぐらせた。「(テレビ制作会社時代)お前は暗い、向いてないと言われ続け、朝起きるたびに辞めようと思っていた。ところが28歳のとき、自分の企画が通り、1時間のドキュメンタリーをリサーチからディレクションまで全て1人でやることができた。そこで初めて、この仕事の面白さに気づいた」と述懐した。
「僕はどこにいてもなじめない性格。大学でも、テレビ制作会社でもそうでしたし、映画業界でさえ、最初は『違う』と思っていた(笑)。でも、最近は、先ほども言いましたが、『違和感』を覚えることは、決して悪いことではないなと。安住の地があるよりも、ずっと彷徨っている方が、発想が豊かになるし、老いないですからね(笑)」と語った。(取材・文・撮影:坂田正樹)
映画『万引き家族』は全国公開中