津田寛治、北野武から学んだ芝居の極意
超嫌味な上司から強面のヤクザまで、さまざまな役柄を変幻自在に演じ、テレビドラマに映画にと引っ張りだこの津田寛治。どんな映画でも、自然にスクリーンの中に馴染んでいく津田が、彼の考える芝居の極意を明かした。
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主演を務める最新作『名前』は、直木賞作家の道尾秀介原案、『狂い華』の戸田彬弘監督による人間ドラマ。津田が演じる中村正男は、経営していた会社が倒産して茨城の小さな家でひっそりと暮らしている。中村は家族思いの良き父親、昔の同僚に会う時はロレックスをつけて成功者を装うなど、いくつもの偽名を使い分けて暮らしている。
自身が演じた中村の生き方を、津田は「普通の人は、普段からいろんな顔を上手に使い分けることができると思うんです。仕事や、友人、家族、それぞれが相手によって声もしゃべり方も変えられる。でも中村はそれができない不器用な人間だからこそ偽名を使っているんじゃないかな」と分析する。いくつもの顔を持っていても、中村は決して犯罪者ではない。
ヤクザや殺し屋などの強烈な役柄に比べて、中村という「普通」の男の演技だからこその難しさを感じることはなかったのだろうか。「難しい、と思った時点で芝居をしているってことだから、それは考えません。いつも心がけているのは、いかに演じないようにするかということ」と自身の演技論を語った。それは、恩師でもある北野武監督から「芝居をするな、演じるな、演じないでただそこにいることが大事」と言われてきたためで、本作でもただ中村としてそこにいることが重要だったという。
それでは、ヤクザや殺し屋などはどうなのだろう? あの強烈な個性は、役柄を作っているわけではないのだろうか? 「悪役に関しても同じで、ゼロから芝居を作っていくのではなく、自分の中にある凶悪な部分や、凶暴さを最大限に引き出すようにしています」と明かし、そのためにネガティブな役柄を演じた後はなかなか元に戻れなくて、しばらく自分自身もイライラしたり、口が悪くなったりと引きずってしまうこともあるそうだ。
本作の撮影について「戸田監督は、常に役者に寄り添ってくださる人。長回しも多かったんですが、長回しっていう意識もこちらになくなっていて、セリフを覚えた感覚すらなく、ただそこにいる感じで撮影現場にいました。共演した役者さんと対峙しているだけでキャラクターにどんどん厚みを作ってくれる、そんな感じなんです」と振り返った津田。自分に与えられた中村という男として、映画の空間の中にただ馴染んでいく。本作ではそんな彼の演技を堪能できる。(取材・文:森田真帆)
映画『名前』は6月30日より新宿シネマカリテほかにて全国公開