「NINAGAWA・マクベス」NY公演、アメリカ人の反応は?
ニューヨークのリンカーン・センターにあるデヴィッド・H・コッチ・シアターで上演された、蜷川幸雄さん演出、市村正親さん、田中裕子さん共演の舞台「NINAGAWA・マクベス」について、アメリカ人の反応を聞いた。
【動画】同舞台の映像化『蜷川幸雄シアター2/NINAGAWA・マクベス』予告編
スコットランドの将軍マクベス(市村)は、荒野で出会った3人の魔女たちに「いずれ王になるお方」と予言され、欲に駆られて王位を狙うようになる。マクベスの妻(田中)も夫マクベスを煽り後押しする中、マクベスはスコットランド王ダンカンを殺害。幸運も味方し、念願の王の地位を手に入れることに成功するが、悲劇はここから始まる。
「日本の解釈であるのに、ちゃんとマクベスの心の内を捉えていると思ったね。それは、単に演技で表現するだけでなく難しいことだと思うんだ」と興奮気味に語るのは、フィルムメイカーをしているエイドリアン・ハシミさんだ。「僕と妻にとって、もともと以前に観た英語版の『マクベス』は、好きな舞台の一つなんだけど、個人的にはその英語版よりも、良いと感じたくらいだよ。日本の解釈の方が、戦争(戦い)の本質をつかんでいて、マクベスを通した人の弱さが描かれていたね。ステージは、まるでグラフィックを観ているように色鮮やかだったよ」と蜷川演出を絶賛した。
「英語圏以外の解釈としては、例外的にうまくいった作品だと思う」と語るのは、日本人の奥さまと来ていたチャールズ・ゲイツさん。「黒澤明監督が手掛けた『蜘蛛巣城』もシェイクスピアの戯曲『マクベス』が基になっているが、本来の人間の心理状態を見事に日本の文化に移して描いていて驚かされたのを覚えているんだ。この舞台はあの作品に匹敵するくらい感動させられ、シェイクスピアの作品が普遍的なものであることを再認識したよ」。
続けて、印象的なセットデザインや衣装について、「歌舞伎をほうふつさせる感じもしたけれど、実際は原作の要素と歌舞伎的(日本的)な要素のバランスがとても取れていたと思うんだ。歌舞伎的な要素を多く含めすぎると、歌舞伎作品をあまり知らない西洋の人たちは、その(作品の)方向性がわからなくなってしまうからね」と分析。俳優らの演技についても、「二人とも素晴らしかった。田中裕子さんが『おしん』に出ていたのを知っているけれど、その演技力は今でも失われていなかったよ。彼女が素晴らしかったのは、普段感情的に演じやすいマクベス夫人を、感情を出しすぎずに抑えて演じていたことだね」と称賛した。
今回、初めて日本の舞台作品を観たというジョー・トーマスさんは、「桜の散るシーンや侍の甲冑(かっちゅう)などで、見事にシェイクスピアの世界を日本に移行させていたね。雪が降ったり、桜が散ったりする箇所では、人間のはかなさを描いたような象徴的な意図も感じられたよ。冒頭で登場した3人の魔女が英語版の魔女と異なっていて、すぐに惹きつけられたんだ。もっと日本の文化を知ってみたくなったよ」と語った。
定期的にリンカーン・センターで舞台を観劇するというリサ・マットラウスキーさんは、「ビジュアル的に圧倒されたわ。日本の演技のスタイルが、作品全体を抽象的にさせ、それがむしろパワフルな演出に思えたわね。日本の舞台作品だから、翻訳されたセリフが舞台の上に表示されていたけど、それによって様式化された日本の設定や、感情的な演技が引き立って見えたと思うわ」と全体的には褒め称えながらも、唯一、まだ消化しきれていないところがあると続ける。
「どう判断してよいのかわからなかったのが、音楽の選択ね。サミュエル・バーバーの『弦楽のためのアダージョ』は、西洋の時代物の曲でもなければ、日本の曲でもないから、この曲が日本の舞台でも使われていたのかが気になってしまったの。ただ最後まで観ると、マクベスの感情を最後まで運んでくれているようにも思えるから、ひょっとしたらよかったのかもしれないわ。ただ、もう少しその選択については考えてみたいわ」と熱心な観劇ファンらしい感想を語った。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)