ホロコーストの中心人物捕獲の実話を描いた話題作、監督が語る
映画『スター・ウォーズ』シリーズなどのオスカー・アイザック主演の話題作『オペレーション・フィナーレ(原題) / Operation Finale』について、クリス・ワイツ監督と俳優のニック・クロールが、8月14日(現地時間)、ニューヨークのAOL開催のイベントで語った。
本作は、ホロコーストの大虐殺に深く関与していたナチスの元将校の逃亡生活を追跡した、イスラエル諜報特務庁(モサド)の諜報員に焦点を当てた物語。ナチスの元将校アイヒマン(ベン・キングズレー)は、米軍の捕虜収容所で拘束されていたが逃走。アルゼンチンで逃亡生活を送っていた。だがある日、アイヒマンの潜伏先の情報を得たモサドは、ピーター(オスカー)やラフィ(ニック)が属するアイヒマン捕獲チームをアルゼンチンへ派遣する。映画『アバウト・ア・ボーイ』のワイツ監督がメガホンを取った。
本作は実話を基にした作品だが、あまり知られていない事実であり、またモサドのアイヒマン捕獲を中心に描いた作品もこれまでなかった。近年の映画界は大作にこだわり、こういった実話を基にしたストーリーを描く機会が少なくなっているだけに、本作が製作できたのは本当に素晴らしいことだったとワイツ監督は語る。
「これは信じがたい実話で、実際にクレイジーなことが起きていたんだ。例えば、アイヒマンは自分の名前をリカルド・クレメントと改名したが、息子にはクラウス・アイヒマンと元の名前をそのまま付けている。その息子は、ある女性が本当はユダヤ教徒と知らずに付き合い、彼女が初めて自宅を訪ねたときに、ユダヤ人大虐殺に関わった張本人の息子であることを知る。そんな信じられない実話が描かれているんだよ」。
一方、モサドの諜報員を演じたニックは、このアイヒマンの捕獲を知っていたという。「僕の父は競合情報分析に携わっていて、アイヒマンを捕獲するためのモサドの一員として参加した人物と仕事をしたことがあったんだ。今作にはその人物はチームの一員として描かれていないけれど、彼は重要なメンバーの一人で、僕は父がそんな人物を知っていることを、当時子供ながらに自慢していたんだ」と驚きの事実を明かした。ニックの父親も今作を鑑賞し、気に入ってくれたそうだ。
映画内ではアイヒマンを等身大の人物として、しっかり描いていることも興味深い。「ドイツが特別(悪者)ではなく、このような(悲惨な)出来事はどこにでも起こり得ることなんだ。もしアイヒマンがごく普通の環境で生活していたら、彼もまたごく普通の人間だったかもしれない。彼はサイコパスでもなければ、最初から悪人だったわけでもない。だが彼は大志を抱き、キャリア志向でナチスでの新たな機会を見いだしたことから、悲惨なことをすることになったんだ」とワイツ監督。ユダヤ系アメリカ人のためになる描き方、あるいは反ユダヤ主義を掲げる人々を標的にする(一方的な)描き方をせずに、(映画を通して)何が起きたのかを、人々に気づかせる責任が監督にはあると訴えた。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)