コンペ部門唯一の女性監督「深刻な問題」と男女の差に言及
第75回ベネチア国際映画祭
現地時間6日、イタリアで開催中の第75回ベネチア国際映画祭で『ザ・ナイチンゲール(原題) / The Nightingale』の公式記者会見が行われ、オーストラリア出身のジェニファー・ケント監督がアシュリン・フランシオーシ、サム・クラフリンらキャストとともに出席。大きな拍手で迎えられたジェニファー監督らが、各国の記者から出た質問に応じた。
【写真】ナタポー!ガガ!ベネチア映画祭レッドカーペットの様子
本作の舞台は1825年のオーストラリア・タスマニア。自分の家族への暴力行為を行なったイギリス人将校に復讐することを決めた、クレアという若い女性の姿を描いている。復讐という目的を果たそうとする中でクレアは、暴力にまみれた過去からくるトラウマを抱えたアボリジニーのビリーと行動をともにすることとなる。
スクリーンに映し出されるのは200年近く前の時代のオーストラリアだが「人種差別」「暴力」など今まさに世界で問題となっているテーマを扱っている。「映画の魅力は独自の世界をつくりあげることが可能なこと」と話し始めたジェニファー監督は、「とはいえ非現実的なものにしたくなく、すこしリアルから距離のある場所を舞台にしました。そしてこのテーマは1820年代のオーストラリアで巻き起こっていた問題でもありました」と舞台設定について説明した。
デイミアン・チャゼル監督の『ファースト・マン』、塚本晋也監督の『斬、』など本映画祭のコンペティション部門に出品されている映画は合計で21作品あるが、女性監督がメガホンを取ったのは『ザ・ナイチンゲール』だけだ。「唯一の女性監督であることをどう思いますか? 特別な責任を感じていますか?」と記者から質問が飛んだ。
「(自分が唯一の女性であることに)喜びは感じていません。ほかにも女性監督がいたらなと思っています。映画の役割はこの世界を映し出すことなのに、人口の50%しか映し出せていないのは、映画が役割を果たしていないということです。とても深刻な問題だと私は考えています。私たち全員がバランスについて考えるべきです。そして女性監督に関してだけでなく、有色人種の監督、発展途上国の監督など正当な扱いを受けていない人たちはほかにもたくさんいます。(解決までの)道のりは長いです」とジェニファー監督は訴えた。
「作品を観て大変な撮影だっただろうなと感じました」という感想に「とても大変な撮影でほぼ死にかけました(笑)。極寒の日に雪が降ったり雨が降ったり太陽が出ているのに雨が降っていたりもして……。地獄のような撮影でした。まぁ楽しい地獄でしたけど」と撮影を振り返るジェニファー監督の笑顔には力強さがあふれていた。(編集部・海江田宗)