マイケル・ムーア、新作『華氏119』を語る!
映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』『華氏911』などを手掛けたマイケル・ムーア監督が、最新作『華氏119』(11月2日 日本公開)について、9月13日(現地時間)、ニューヨークのリンカーン・センター・アリス・タリー・ホールで行われたニューヨーク・プレミア上映後のQ&Aで語った。
本作は、2016年大統領選で、ドナルド・トランプ米大統領がいかに選挙の勝ち方を心得ていたか、逆に勝利を確信していた民主党の対立候補ヒラリー・クリントン氏が、いかに落とし穴にはまり、現在のような経済及び社会状況になっていったかを捉えながら、アメリカの医療健康管理、自動車産業、学校での銃乱射事件などの問題を浮き彫りにしたドキュメンタリー。
今作は、ムーア監督が描いたトランプ大統領の映画という認識がなされているが、実際にはそれ以外のものや、現在の社会に極めて重要なことを描いていると監督は語る。「僕は、トランプ大統領の当選から現在までをまとめた一貫性のある作品や、観客が誤って希望を持ってしまうような作品にしたくはなかったんだ。なぜなら、僕自身は(現状に)全く希望が持てていないからね……。もっとも、映画内で描かれているように、学校での銃乱射事件などで立ち上がった若者たちなどを前向きに考えることもできるけれど、彼ら以外には全く希望が持てないんだ。でも、もはや家で座ったまま、物事がよくなっていくことを期待しているだけの時間はなくなったと思っているよ」。
トランプ大統領については、大統領選に参戦すると表明したとき、ほとんどの人は真剣に受け取っていなかったが、最初から本気だろうと思っていたとムーア監督は明かす。「もちろん、はじめから彼が大統領選に勝利するとは思っていなかったけれど、共和党の代表になるとは思っていたんだ。僕は一般の人たちと同じように、よくテレビを観ているが、彼はテレビ的な人物だったからね。おそらくこの会場にいる人たちの10人に1人は『アプレンティス』(トランプがホストを務めたリアリティーショー)を毎週観ていただろうし、多くの人はあの番組が好きだったと思うんだ」。
また、最初にトランプに会ったという1990年代を振り返り、メディアはトランプのクレイジーな(不動産でのビジネスやビューティー・コンテストなどの)出来事などを長年ジョークとして捉え、彼自身を真剣に見てこなかったのだと指摘する。「でも、僕はずっと彼は本物だと思っていたよ。(大統領選での)中西部でのスピーチでは、(トランプを嫌う)ウォール街の人々を自分の信念を持って批判し、見事なスピーチを披露して、知恵で人々を負かしていたこともあった。だから、中西部の(失業者や低所得者層の)人々がいかにトランプ大統領のことが好きか理解もできたんだ」。
それゆえか、反支持者には、もしトランプ支持者に実際に会っても、彼らには何を言っても無駄だから、そんな無駄な時間を過ごすなと言いたいとムーア監督。「アメリカの多くの人々は、アメリカで起きている全ての出来事において、リベラル(大英帝国から独立を勝ち取った米国にとって、まさに国の根幹となる思想)な立ち位置を取っている。リベラルである民主党の大統領候補は、1988年から7つの大統領選で、一般投票(Popular Vote)では共和党に一度しか負けていない。要するに、アメリカ国民は共和党候補に、この国を動かしてほしくないんだ。でも、その事実をリベラルな僕らは聞こうとせずに、トランプ大統領の政策におびえている。リベラルの人々は自分自身を信じて、われわれこそがアメリカ人であると信じなければいけないんだ」と主張した。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)