眼帯の戦場女性ジャーナリストを描いた映画、監督が撮影秘話を明かす
実在した眼帯の女性ジャーナリスト、メリー・コルヴィンさんを題材にした話題の映画『ア・プライベート・ウォー(原題) / A Private War』について、マシュー・ハイネマン監督が、11月13日(現地時間)、ニューヨークのAOL開催イベントで語った。
本作は、2001年のスリランカ内戦取材時に手榴弾の破片で左目を失明し、PTSDを患いながらも、世界各地の紛争をレポートし続けた女性ジャーナリストのメリーさんが、2012年のシリア紛争の取材時に命を落とすまでを描いたもの。映画『カルテル・ランド』のハイネマン監督がメガホンを取り、『ゴーン・ガール』などのロザムンド・パイクがメリーさんを演じた。
今作は、信じられないくらい(生き方が)美しく、複雑な女性であるメリーとジャーナリズムにささげた作品だと語るハイネマン監督。「近年メディアは、フェイクニュースやサウンドバイト(ラジオ・テレビのニュース番組に挿入される録音されたスピーチやインタビューを、ある意味都合の良いように抜粋したもの)などによって、人々から批判されてきた。だから、今作を通して実際のジャーナリストたちが、自身の人生を犠牲にしながらも、どんなことをしているのか、映画を通して探索してみることが重要だったんだ。ジャーナリストたちが、何をきっかけに地球上で最も危険な戦地に赴くようになったのかを、サイコロジカルスリラーのような観点でも捉えているんだよ」と作品への思いを明かした。
特に強い印象を残すシリアの紛争シーンについては、「できる限り真実味があり、リアルで直感的な映画に仕上げたかったんだ。それは観客に、メリーの立場になって鑑賞してほしかったからだ。そのように(リアルに)描くためには、戦地の映像をライブ感覚で捉える必要があったよ。戦地の撮影は全て(シリアの難民も多い)ヨルダンで行い、背景にいた人々も、みんな俳優ではないんだ。メリーが女性や子供たちがかくまわれていたシェルターに入っていくときの映像は、シリアの女性を出演させているし、シリアの人々にインタビューしている場面では、実際に彼らが体験した話を語ってもらっている。語りながら本当に涙しているんだ。それによって直感的で、感情的な現場環境を作り上げることができたんだ」と語り、毎日が困難な撮影であったとも付け加えた。
今作は長編作品ということで、これまで手がけてきたドキュメンタリー映画とは対照的な環境での撮影に戸惑いもあったそうだ。「今作は、俳優もいて、100人近くのスタッフもいるセットで仕事をしたよ。一方、ドキュメンタリーの『カルテル・ランド』では、メキシコの辺ぴな場所に行って、自分が一人で撮影するか、あるいは小さなクルーを連れて撮影するかだ。セットで100人近くものスタッフに囲まれて仕事をするのは、かなり違和感のある体験だったね。でも、ドキュメンタリーも長編もゴールは一つで、それは映画の内容で観客を立ち止まらせて、その重要性に気づかせることなんだ。これは、メリーもジャーナリストを通して、やりたかったことだと思う。だから、鑑賞後には、ぜひ観客同士で語り合ってもらいたいんだ」
主演のロザムンドについては、「最初のシーンのテイクを撮り終えたとき、ロザムンドはずっと携帯を見ていたんだ。僕はメッセージでも送っているのかと思って、プロの俳優にはあまりふさわしくない行為だなとすら思っていたよ。でもテイクを重ねるたびに彼女は携帯をいじるから、ついに『何をしているのか?』と聞いてみたんだ。すると、彼女はヘッドフォンを付けて、残されたメリーのビデオを観て、身体的な動作が正しいか、アクセントが正しいか確認していたんだ」と撮影秘話を披露。
「メリーは(ニューヨークの)ロングアイランド出身のチェーンスモーカーで、しゃがれ声なのに対し、ロザムンドはロンドン出身で、身体的にも、声もかなり違っていたからね」と彼女の変貌ぶりに驚いたことを明かし、現場でロザムンドがメリーになっていく過程を見られたのは、本当に素晴らしいことだったと称賛した。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)