コーエン兄弟作品を支える衣装デザイナー、新作の制作秘話を明かす
ジョエル&イーサン・コーエン兄弟が手掛けたオムニバス西部劇映画『バスターのバラード』(Netflixで配信中)について、衣装デザインを担当したメアリー・ゾフレスが、11月29日(現地時間)、ニューヨークの米映像美術館で行われた特別試写後のQ&Aで語った。
【作品写真】アカデミー賞にノミネートされたコーエン兄弟の名作西部劇
本作は、アメリカの開拓時代を舞台にした、6本の短編作品で構成されている話題の西部劇。当初、Netflixで全6話のテレビシリーズとして手掛ける予定だったが、6つの短編で構成された長編映画になった。主人公には、ティム・ブレイク・ネルソン、ゾーイ・カザン、ジェームズ・フランコ、リーアム・ニーソンら演技派俳優が名を連ねている。メアリーは、長年コーエン兄弟の衣装を担当しているだけでなく、『インターステラー』『ラ・ラ・ランド』などの注目作の衣装にも携わってきた。
コーエン兄弟とのコラボの始まりについて、メアリーは「最初は、プロダクション・アシスタントとして『バートン・フィンク』に関わって、その後、『未来は今』では衣装アシスタントを務めたの。実は、それまでコーエン兄弟の作品の衣装は、リチャード・ホーナングが担当していて、彼はわたしのとても良い師匠だったわ。でも彼が病気で『ファーゴ』に参加できなくなって。そのときに彼がわたしに衣装を担当するよう勧めてくれたの。だから、あのときは(師匠の病気で)苦しくも、楽しい体験になったわ」と振り返った。その後、コーエン兄弟とは現在までコラボが続いている。
そんなコーエン兄弟の脚本を、とても刺激的で、まるで小説を読んでいる感じだと語るメアリー。「これまで読んできた脚本(コーエン兄弟以外の作品)とは全く異なっていて、彼らの脚本は読んでみるとイメージが湧くの。彼らは脚本内に、このキャラクターはこんな衣装を着ているという特定したものを記してはいないけれど、キャラクター自体が刺激的で、どんな衣装がそのキャラクターに合うか、たくさんのアイデアを(脚本の文面で)与えてくれるのよ」
衣装を準備していく過程については「ほとんどは、脚本を読んだ時点で、その時代設定を通して、当時の衣装の情報を最初にかき集めていくの。それからコーエン兄弟と話し合いをしたり、電話で話したりしながら、彼らがどんなものを望んでいるのか確かめ、そしてまたより深い衣装のリサーチをするの。今、この米映像美術館にも展示されているけれど、それぞれのキャラクターに合ったスケッチをしていくわ」と説明。最初に主要キャストのスケッチをし、その後脇役やエキストラのスケッチも考えるそうだ。
だが、今作のセットでは、自分の思い通りに行かないこともあったそうで「ティム・ブレイク・ネルソンが主演する章の酒場のシーンでは、100人近くものエキストラがいて、それぞれがメイクアップや衣装を合わせ、さらに帽子もかぶっていたの。帽子の裏側にはテープで番号をつけて、すぐに誰がどの帽子をかぶるのかわかるようにしていたわ。でも、いざその酒場のシーンの撮影が始まると、ティムが『みんなが酒場で帽子を投げて踊っていたら、素晴らしいんじゃない?』と提案したの。それを聞いたわたしは発狂しそうになったわ(笑)。だって、100人近いエキストラ全ての帽子の裏側にテープをつけていて、帽子を投げたらそれが見えちゃうのよ! 一枚一枚テープをはがして撮影を行わなければならなかったわ」と笑顔で思い出のエピソードを語った。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)