日本公開前に海外から問い合わせ相次ぐ『僕はイエス様が嫌い』
第66回サンセバスチャン国際映画祭(スペイン)でニュー・ディレクターズ賞を受賞した奥山大史監督『僕はイエス様が嫌い』のスペイン・フランス・韓国での配給がこのほど、決まった。国際映画祭で上映されても劇場公開までたどり着ける日本の実写映画は少なく、奥山監督も「海外で配給が決まるなんて想定していなかったのでうれしいです」と語り、2019年の日本公開前に届いた朗報に笑みを見せていた。
同作は奥山監督の大学卒業制作で、長編初監督作となる。実体験を基に、カトリック系の学校に転校した小学生が信仰について考えていくことになる姿を、ユーモアを交えて描いたもので、ワールドプレミア上映となった第66回サンセバスチャン国際映画祭では日本人として22年ぶりとなるニュー・ディレクターズ賞を受賞する快挙を成し遂げた。
スペインでの配給決定は、サンセバスチャン国際映画祭での受賞が後押ししたようだ。受賞の冠はもちろん、同賞には副賞として5万ユーロ(約675万円。1ユーロ=135円換算)が用意され、監督とスペインの配給会社に分配されることになっている。そこには映画祭側の、自分たちが選んだ作家性の強い作品の公開を金銭的にもサポートしようとする狙いがあり、それが実を結んだ形だ。
奥山監督も「配給会社にとっても賞金である程度のリスクヘッジができるので、この賞の意味は大きいと思います。もしかしたらフランスと韓国の配給会社も、スペインでの配給が決まったのなら……と決断してくれたのかもしれません」と語る。
サンセバスチャン国際映画祭上映後も、第29回ストックホルム映画祭(スウェーデン)で、撮影も手がけた奥山監督に最優秀撮影賞が贈られ、このほど開催された第3回マカオ国際映画祭ではスペシャル・メンションとして特別表彰された。評判の高さからマカオ国際映画祭や海外セールスを担当している日活には問い合わせが相次いでいるという。
奥山監督も反響の大きさに「2018年の初めはまだ誰にも知られていない中でこの映画の制作をしていたのに(苦笑)。今では『次回作があったら呼んでね』と(俳優やスタッフから)連絡をいただいたり、製作会社から『次回作の企画があったらやりませんか?』と声をかけていただくようになりました」とうれしい悲鳴をあげている。
映画祭を楽しむ余裕も出てきたようだ。サンセバスチャン国際映画祭ではキリスト教徒の多い街でどのような反応を得るのか緊張していたようだが、ストックホルム映画祭では同国のロイ・アンダーソン監督と出会い、スタジオ見学に連れて行ってもらったという。マカオ国際映画祭では、ストックホルム映画祭でも同じコンペティション部門に参加していたドイツ映画『オール・グッド(英題) / All Good』のエヴァ・トロビッシュ監督との再会を喜び合ったという。
そのほか、イタリア・ローマで開催されたアクロス・アジア映画祭(現地時間12月2日~10日)で上映されたほか、来年も国際映画祭への招待が相次いでいるという。奥山監督は今年から社会人1年生となったが、会社の理解を得て可能な限り参加していきたいという。
奥山監督は「国によって反応が異なるので興味深いものがありますし、映画祭に参加したからこそ得た経験の大きさを実感します。会社員としても頑張っていきますけど、今後も自分の作りたい映画を作り続けて行ければと思っています」と決意を新たに語った。(取材・文:中山治美)
『僕はイエス様が嫌い』は2019年公開