全ての構図に深い意味が!『アリー/スター誕生』ブラッドリー・クーパー、監督としての並外れた才能
俳優のブラッドリー・クーパーが来日時にインタビューに応じ、監督デビュー作『アリー/スター誕生』でのこだわりの数々を嬉々として語った。『世界にひとつのプレイブック』『アメリカン・ハッスル』『アメリカン・スナイパー』と3年連続でアカデミー賞男優賞にノミネートされるなどその演技力は誰もが認めるところのブラッドリーだが、本作では初監督にしてゴールデン・グローブをはじめとした名だたる賞の監督賞候補に。考え抜かれた構図をはじめ、彼の並外れた名監督ぶりは批評家からも高く評価されている。
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世界的ロックシンガーのジャクソン(ブラッドリー)に歌の才能を見いだされてスターの階段を駆け上がるアリー(レディー・ガガ)と、それと反比例するように落ち目になり、一層アルコールに依存していくジャクソンを描いた本作。
「映画の一番の魅力は、視覚的要素で物語を語れること」というブラッドリーは、だからこそ長年監督をしたいと思い続けてきたといい、本作でもどこにカメラを置き、どんな構図にするかを考える作業が一番楽しかったと明かす。
「キャラクターとカメラとの関係が大切だと考えた。ジャクソンはカメラを避けるようにしている。もはや避けることができなくなるまで、ずっとね。それとは反対に、アリーは映画の最初のトイレにいるシーンですら、常に画面の中央にいる。観客があたかも彼女を見つけようとするように、トイレの個室にカメラが近づいていくようにした……。本人はまだ自覚していないが、彼女がそれだけの力・才能を持っているということを最初から表しているんだ」
『ブラック・スワン』や『マザー!』などダーレン・アロノフスキー監督とのタッグで知られる撮影監督マシュー・リバティークとはすぐに意気投合したそうで、「彼は、俳優が自由に演技をできる、即興的に動きが入ってしまってもいい画になるような照明を作ってくれた。これはとても重要なことなんだ」と感謝する。「監督によっては嫌いな人もいるが、僕は二台のカメラで同時に撮るのも大好き。素晴らしい構図を作りつつ、二台同時に撮影するということは可能だ」「人生でも記憶に残るような“触れる瞬間”をちゃんと捉えたいと思った。観客もまたキャラクターに触れているような感じがするような……。だからジャクソンがアリーの鼻に初めて触れるシーンなどは、(印象に残るように、通常の倍である)1秒48フレームで撮影しているんだ」と続け、「こういう話をするのは大好きだから、永遠に話していられる」と笑った。
ブラッドリーには、ジャクソンとアリーの声についても初めから思い描いていたものがあった。「僕はジャクソンの声は、水のような感じだと思っていた。アリーはその水の中を上に行ったり下に行ったりする魚のようなイメージ。彼らが会話をするとき、そういうふうに聞こえてほしいと思っていた」
水の“深さ”を出すために、ブラッドリーは自分の声を低くすることに。「ジャクソンの声は、映画の最初から確立している。不幸なことに、彼は若くして名声を得て、人生を掘り下げることなくここまで来てしまった。子供のまま、44歳になってしまった男なんだ。だからずっと昔に作られた声、という感じを出そうと思った」。一方で若きアーティストのアリーはまだ自分の声を見つけていない。「彼女は最初カバーソングを歌い、ジャクソンの音楽に影響された歌を歌い、ポップソングを歌い、最後には自分の歌を見つける。アーティストが自分の声を見つけるまでの、その道のりを僕は追いたかったんだ」
監督という大役に身のすくむ思いだったというが、「実際にやってみたらすごく落ち着いていた」とブラッドリー。「そこにはアーティストとして望むもの、全てがあった。これほどまでに充実していると感じた仕事はない。この作品を作るのには4年かかっているんだけど、この先20本の作品に役者として出演するよりも、5本の監督作を作りたいという気持ちが今、大きくなっているんだ。一度監督したら、そう感じるようになるじゃないかと危惧した通りになってしまった」とほほ笑んだ。これからは監督ブラッドリー・クーパーの姿を見ることが多くなりそうだ。(編集部・市川遥)
映画『アリー/スター誕生』は公開中