子育て優先のサンドラ・ブロック、子供たち伝えたい大切な価値観
Netflixで配信がスタートしたオスカー女優サンドラ・ブロック主演、スザンネ・ビア監督の『バード・ボックス』は、正体不明の脅威に襲われた人類が滅亡の危機を迎えた世界を舞台にしたサバイバルスリラー。サンドラは2人の幼い子供たちを守るため、決死の逃避行を繰り広げるシングルマザーのマロリーを熱演。役づくりや本作が伝えるメッセージを語った。
見た人間を破滅的な行動においやる“それ”の脅威を描く本作について、実は「かなり昔に脚本を読んだ時にはピンと来なかった」というサンドラ。しかし、実生活で母親になってから再び目を通し、とても惹かれたという。「年齢を重ねるにつれて、人々を楽しませるために映画を作る、ということがもっと理解できるようになったの。この映画は、とても恐ろしいエンターテインメント作品であるのと同時に、感動的で、今世の中で起きているいろんなことが反映されたものになることがわかった。移民問題や地球温暖化、社会的分断などについてね。また、“母親であること”についての隠喩的に描いた作品なんだということにも気がついたわ」
“それ”を見ないように終末世界を生きる人々を演じるため、目隠しをして撮影に臨まなくてはいけなかったサンドラ。役づくりのうえで、視覚障害を持つ協力者にさまざまなことを教わったという。「彼は私の家に入った途端、壁までの距離や、天井の高さまですぐに言い当てたの。撮影が後半にさしかかるまでに、あらゆる秘訣を彼から学んだわ。目隠しをして撮影するのはとても大変だったけど、基本的にはうまくいった。目が見えないふりをしなくてよかったし、実際に見えなかったから、全てがリアルに感じられたの」
劇中では、その目隠しをしたまま、子供たちと急流を下る迫力満点のシーンも登場。撮影には3週間もの時間を要したという。「樹齢何千年もの巨大なレッドウッドの森の真っただ中にいたわ。携帯電話も通じなくて、すごく孤立した場所にいることが、演技の大きな助けになった。川はすごく美しかったけど、冷たくて怖くて。もしボートから落ちたら、誰かが助けに来てくれるまでに、数秒はかかったでしょうね」
劇中でマロリーは、あらゆる脅威から幼い子供たちを守るため、常に厳しく接しなくてはならない。それがサンドラにとっては、目隠しよりつらいことだったようだ。「いつも、これはただの演技よって子供たちに言ってから撮影をしていた」と振り返る。「最も大変だったのは、5歳の共演者を安全だと感じさせることだったわ。私たちは今遊んでいるけど、アクション! と言われたら、私は全く違う人になるからねって言い聞かせていた。なぜって、小さな天使たちを怒鳴らないといけなかったからよ。カットがかかったら、すぐ2人におやつをあげて、謝っていたわ(笑)」
サンドラは近年、女優業を抑えて、養子に迎えた2人の子供を育てることを最優先してきた。劇中のマロリーは子供たちに終末世界で生き残る術を教えるが、サンドラ自身は、彼らにどんな価値観を伝えていきたいと思っているのか。その答えは、彼女の人間的魅力を表すものだった。「何が起きても、ちゃんと生き抜けるように育てないといけないと思う。でも同時に、人には善い部分があるという“希望”を伝え忘れたら、 映画の中の人々みたいに、他人を信頼できず、全てを怖がる人間になってしまう。だから、私は子供たちに言うの。あなたたちがアイビーリーグ(名門私立大学の総称)に行こうが行くまいが、全く気にしない。私が気にかけているのは、あなたたちがベストを尽くすこと。人に親切であること。健康であること。ハッピーであること。人々を思いやること。そして、社会にお返しをすることだけって!」(取材・文:吉川優子)