「いだてん」古舘寛治、役所広司はスーパーヒーロー
現在放送中の大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」(NHK総合・日曜20時~ほか)で東京高師・大日本体育協会の助教授・可児徳(かに・いさお)を演じる俳優・古舘寛治。平田オリザ、山内ケンジらの舞台や、沖田修一監督(『南極料理人』(2009)ほか)や深田晃司監督(『淵に立つ』(2016)ほか)らの映画で強烈な存在感を放ってきた個性派だ。「いだてん」では師と仰ぐ嘉納治五郎(役所広司)に振り回され右往左往する姿がコミカルに描かれているが、可児と嘉納の関係は、そのまま古舘と役所の距離感にリンクするという。
可児を「いわば中間管理職的な人物。上下関係に振り回されながら、真面目に仕事をする普通の社会人なのでとても共感しやすいですね」と評する古舘。俳優は、役柄に共感できなければ演じられないという持論を持つ古舘だが、「偉人を理解するのは難しいですが、可児さんの気持ちはわかるんです」と笑う。
一方で、上司の嘉納に対しては「ある意味でスーパーヒーロー的な人」と表現。「だから役所さんのような俳優さんが演じるんです」と語る。古舘にとって役所は「スーパーヒーロー」だというのだ。
「僕が中学生のとき、役所さんは大河ドラマ(『徳川家康』(1983))で織田信長を演じられていたのですが、廊下を歩いて部屋に入ってくるシーンを見て『誰だ! この俳優は』と驚いた記憶があります。その後のドラマ『宮本武蔵』(1984~1985)も圧巻でした。これまで日本で宮本武蔵をやられた俳優さんはたくさんいますが、絶対ナンバー1だと思う。僕が日本の俳優でダントツに憧れている人が役所さんなんです」
古舘にとって圧倒的な存在である役所とは、2012年に公開された映画『キツツキと雨』で共演している。「あのときも嬉しかったのですが、今回は大河ドラマで、しかも長い期間ずっと行動を共にする役ですからね。どれだけ自分は幸運な男なんだって思いますよ(笑)」。
可児が嘉納に抱いている畏敬の念と、古舘が役所に感じている圧倒的な存在感がリンクしているという本作での関係。古舘は「役所さんの横で僕がビクビクしている感じが、そのまま可児と嘉納先生の関係と同じなんですよ」と楽しそうに笑う。
さらに古舘の役所愛は続く。「僕も俳優としてこだわりがあったり、うるさい方だったりする方だと思いますが、役所広司を目の前にすると『僕なんて俳優業やらなくていいのかな』と思ってしまう。日本は俳優教育をしっかりしていないから、言ってみれば誰でも俳優になれてしまう。そんな日本で役所さんは、世界に誇れる数少ない俳優。そんな人と一緒に芝居ができることは本当に幸せなんです」
とは言いつつも、古舘も多くの若手俳優から羨望の眼差しを向けられる実力派俳優だ。本作で演じる可児も多くの反響を呼んでいる。自身もSNSを利用しているため、視聴者からの反応は敏感に感じているという。「エゴサーチはしますね(笑)。褒められたら嬉しいし、けなされたら嬉しさの100倍腹が立ちますよ」と苦笑い。それでもSNSでは、しっかりと思ったことを述べるという。「いつ干されるかビクビクしている部分はありますが、ある種しっかりと意見を言える場ですからね」
一方で、炎上騒ぎが巻き起こるなど、SNSの負の部分へも言及する。「匿名でマイナスの感情を吐き出す場になってしまう危険性もありますよね。そこはメディア側も含めて、あまりネガティブに影響を受けすぎない心構えも必要だと思うんです」と問題提起する。
今後、可児はアメリカ留学を経験するなど、まだまだ活躍が期待される。「宮藤(官九郎)さんの脚本は、説明的ではなく細部にもこだわりがある。本当に素晴らしい」と絶賛。宮藤の脚本に対して「(演技で)どこまで攻められるか。そこが勝負。(東京高師教授・永井道明役の)杉本哲太さんなどには、しつこくセリフ合わせしてもらっています」と貪欲に可児という役柄を追求している。古舘、役所、杉本……渋い実力派俳優たちが集う大日本体育協会のシーンは本作の楽しみの一つだ。(取材・文:磯部正和)