中国で興収600億円のSF話題作『流転の地球』、監督が苦労を明かす
中国で公開後、わずか2週間で興行収入6億ドル(約660億円 1ドル110円計算)という記録的な数字をたたき出した映画『流転の地球』について、グオ・ファン監督が2月24日(現地時間)、ニューヨークのシアター、AMCエンパイア 25 で行われた特別試写後のQ&Aで語った。
【作品写真】大ヒット中のハリウッド的SFアクション映画『アリータ:バトル・エンジェル』
本作は、作家リュウ・ジキンの短編小説「さまよえる地球」を実写映画化した作品。太陽が数百年以内にヘリウム・フラッシュ(大爆発)を起こして赤色巨星化するという危機に直面した人類が、太陽系脱出の計画に乗り出すために、中国人の宇宙飛行士や地上部隊が力を合わせ、世界の人々の協力を得て危機を乗り越えていくさまを描く。ファン監督がメガホンを取り、チュ・チューシャオ、チャオ・ジンマイらが主演を務めた。
17歳の頃、映画『ターミネーター2』を観てファンになったというファン監督は「SFアクション映画が好きで、今作を手掛ける前に、中国で2作のSF映画の企画を立ち上げたが、いずれも予算の都合上、手掛けることができなかったんだ。その後、(才能のある若手として)4人の監督と共にハリウッドに招待されたときに、自分たち中国人はハリウッドの人たちよりも想像力が足りなかったわけではなく、技術が足りないことを再認識させられたんだ」と振り返り、中国に戻った後、スタッフが個々に技術を上げたことで、かつての技術不足を乗り越えることができたのだと思うと語った。
実際に、今作のスペシャル・エフェクトは、75%を中国のプロダクションが手掛け、残りを別の国で手掛けたそうで「ハリウッドの大作で使用されるスペシャル・エフェクトの標準レベルに追いつくまで、僕ら中国人スタッフは約10年もかかった。今作は、ハリウッドでも中の上レベルのスペシャル・エフェクトの技術に到達していると思うよ」と自信をのぞかせた。
だが、ファン監督にとって、今作を手掛ける過程は、まるでゴールの見えないマラソンのようだったという。「まず、中国のスタッフ同士の信頼を得てから、海外から関わってくれたスタッフに信頼してもらうようにしたが、共に製作していくことはかなり困難だったんだ」とはいえ、今作のような大作を予算4,800万ドル(約53億円)で収めたことは、誇りに思っているとも明かした。
今作で、なぜ地球ごと太陽系から脱出する計画を立てたのかという点については「アメリカ人が同じ状況下(太陽の爆発が迫り、地球の終わりが近づいている)の映画を描いたなら、おそらくアメリカ人的な発想から、他に人類が住める惑星を探すような作品になっていたと思うんだ。けれど、僕ら中国人は、(歴史上)集団主義を大切してきた国家で、どんな状況下でも自分たちのホーム(国や地球)を愛してきた。だから、地球ごと太陽系からの脱出を計画するという発想が生まれたんだと思うよ。それに、僕らにはキャプテン・アメリカのようなスーパーヒーローはいないし、個人は特別な人間ではないと思っている。それでも、人々が集まることで、何かを成し遂げてきた国だと思っているんだ」と説明。中国人の価値観を表現したことが、母国での大ヒットにつながっているのかもしれない。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)