「女王の教室」「白夜行」で注目、福田麻由子の転機
「女王の教室」(2005)、「白夜行」(2006)などの人気ドラマに出演し、名子役として鮮烈な印象を残した福田麻由子。月日は流れ、24歳になった彼女は、来月5日公開の映画『ラ』で孤独なヒロインを繊細な演技で体現している。「役者を辞めたいと思ったことは一度もない」と言い切る福田だが、中学・高校・大学と、学業と両立する中で、多感な時期をどう乗り越えてきたのか? 意外にも「青春を謳歌していた」と笑顔を見せる福田が、子役から大人の女優へ、最も大切な転換期について振り返った。
『ラ』は、解散したバンドを再結成するために奔走するフリーター・慎平(桜田通)と元バンドメンバーの黒やん(笠松将)が、ぶつかり合いながらもそれぞれの人生を模索していく姿を描く音楽青春ドラマ。福田は二人の熱い友情の狭間で、“ある条件”と引き換えに、愛する慎平を金銭的にサポートする孤独な女性・ゆかりを熱演している。
どちらかといえば、自分の意思を持った芯の強い役が多かった福田は、かねてから「弱い女の子を演じてみたい」と切望していた。そんなときにめぐってきたゆかり役。最初は人に依存しすぎるゆかりに共感できなかったという福田だが、「演じていくうちに、ある意味、ゆかりにしかない強さも見えてきた。今ではゆかりがカッコよくさえ思える」と笑顔を見せる。
そもそも子役の世界に入ったのは「母に『おかあさんといっしょ』(NHKの幼児向け教育番組)に出たい」と言ったことがきっかけだったという。そして、あくまでも習い事の一環として4歳のときに児童劇団に入団。ところが9歳のときに運命を変えるドラマと出会う。「天海祐希さん主演の『ラストプレゼント ~娘と生きる最後の夏~』(2004)に出演したときに、周りの人たちがわたしを一人の役者として扱ってくださって。ドラマも濃厚だったのですが、すっかりお芝居の魔法にかかってしまい、これを機に本格的に女優をめざすようになりました」と明かす。
以来「一度も役者を辞めたいと思ったことがない」という福田にとって、女優はまさに天職。故・市原悦子さん主演のドラマ「霧の火 -樺太・真岡郵便局に散った9人の乙女たち-」(2008)では、戦時中の樺太で電話交換手を務める役を務め、「フィクションとはいえ、史実に基づいたとても素晴らしい作品。生半可な気持ちじゃ絶対に演じることはできない」と痛感。「自分が生きている社会のこと、世界のことを、もっとちゃんと知らないと、人々の思いを背負って演じられる本物の役者にはなれないと、このとき初めて思い知らされました」と述懐する。
「このまま映画やドラマの撮影現場だけで生きていたら、空っぽな人間になってしまう」。そう思い立った福田は、自分自身の人生も精いっぱい生きようと、高校、そして大学と、普通の学生と同じように、青春を思いっきり謳歌した。「友達もできたし、プリクラも撮ったし、アルバイトもたくさんやりました。冷凍荷物を仕分けしたり、アパレル会社の倉庫で検品したり、どうせやるなら肉体労働だなと思って」。そして昨年、大学を無事卒業。「どんなにお芝居にのめり込んでも、人として大事なものを失わない、という自信はついたかな。それくらい自分自身を100%生きた。あとは、学校がないと、人生こんなにも時間があるんだなって初めて知りました(笑)」。
今年8月で25歳になる福田。「これから30歳までの5年間は、役者として、とにかくがむしゃらに働きたい」と目を輝かせる。そんな意気込みを神様が汲んでくれたのか、今年は映画『疑惑とダンス』に続いて本作が公開され、秋にはNHK連続テレビ小説「スカーレット」が待機する。「すごくいいめぐり合わせ。子役のときから知っていてくださる皆さんに、大きくなったわたしを見ていただける、今がそのタイミングなのかな」。小さなつぼみが大輪の花を咲かせるときが来た。(取材・文:坂田正樹)
映画『ラ』は4月5日より全国公開