マット・スミス、写真家メイプルソープを演じた主演作を語る
1970年代~1980年代にニューヨーク・アートシーンで活躍した写真家ロバート・メイプルソープを描いた伝記映画『メイプルソープ(原題) / Mapplethorpe』について、主演のマット・スミスとオンディ・ティモナー監督が、ニューヨークのAOL開催イベントで語った。
【作品写真】メイプルソープのドキュメンタリー映画『メイプルソープとコレクター』
メイプルソープは、1960年代後半、当時は無名だが後に「パンクの女王」として世間に名をはせるパティ・スミスと出会い、共に暮らし始める中、チェルシー・ホテルを根城にしたさまざまなアーティストたちと交流し、自身の才能を男性ヌードやセクシャリティーを探求した作品などで開花させていった写真家。エイズのため42歳の若さで亡くなった。
製作のきっかけは、メイプルソープが作品に対してどれほど妥協を許さなかったかが理解できたから、とティモナー監督は語る。「(社会から)不可能と思われていたことに臨み、行動として可能であることを証明して見せて、自分の持っていたビジョンを現実にしたの。それに彼の作品はある意味、アーティストとしての賛美歌のようなもので、彼は(他人に左右されず)わが道を進んだことで、わたしたちに勇気を与え、アートとしてみなしていないものを見せてくれ、人生の道にも変化を与えてくれた。彼らのような芸術家たちが、社会の片隅にあったものを押し出して、何か興味深いものに変えてくれるからでもあったわ」
そのメイプルソープを演じたマットは、実在の人物を演じるのはかなり大きな責任があると語る。「でも、僕にとっては、テレビシリーズ『ドクター・フー』の宇宙人であるドクターであろうが、このロバートであろうが、リアルに演じてきたつもりなんだ。だから、確かに責任はあったけれど、僕自身は彼の(感覚の)鋭さに興奮して演技に臨んでいたし、気難しいところはあるものの、集中して、仕事への倫理観を持って、多くの作品を作り上げた芸術家として称賛しているんだ」
レンズを通して客観的に物事を見始めたことで、自分のセクシャリティーにも目覚めていったメイプルソープ。アーティストとして、それは共感できるとティモナー監督はいう。「もともとドキュメンタリーのフィルムメイカーであるわたしは、撮影中はさまざまなクレイジーな状況に出くわすけれど、カメラの後ろに立っていると、多少自分が守られている気がするの。例えば、わたしが彼のように、社会がガラクタとみなしている地下のクラブのような場所から何かを抽出して、男性の体のような形のあるものを作り上げて、その美しさを表現できたとしたら、人々は否定せずに、その“美”に気づくと思うわ」
また、“ポルノとアートの境界線を曖昧にした人物”という点については「人の注意を引くことにはこだわっていた人だと思うわ。ひょっとしたら、彼以外にもそのようなことをしていた人がいたかもしれないけれど、当時、彼のような写真を撮っていた人は少なかったと思うわね」と持論を展開した。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)