松岡茉優、いつだって前のめり くやしさは原動力
映画『万引き家族』『勝手にふるえてろ』で数々の賞に輝き、『バースデー・ワンダーランド』(全国公開中)で声優として初主演を果たすなど、近年さらに大きな存在感を発揮している松岡茉優。子役から芸能活動をスタートさせ、24歳にしてすでにキャリア15年を数える彼女は「生まれてからずっと、前のめりなんです」とほほ笑むように、身体中から放たれる“前進力”も大きな魅力だ。「くやしい思いもたくさんしてきました。でも誰かに対して“くやしい”と思うことは、とてもうれしくて、気持ちがいいことだと思うんです」とくやしさもパワーに変えるらしい。
『バースデー・ワンダーランド』は、『クレヨンしんちゃん』シリーズや『河童のクゥと夏休み』で知られる原恵一監督の最新長編アニメーション。誕生日の前日、突然カラフルで不思議なワンダーランドに連れて行かれる少女アカネ(松岡)が、謎の錬金術師ヒポクラテス(市村正親)や叔母のチィ(杏)とともに、色が失われてしまうワンダーランドを救う冒険に出る姿を描く。
原監督とは実写映画『はじまりのみち』でタッグを組んだ経験のある松岡。当時、高校生だった松岡の印象を原監督は「媚びない目をしていた」と表現しているが、松岡は「生意気に見えたのかもしれません」と笑顔。「『はじまりのみち』のオーディションのことはよく覚えています。『クレヨンしんちゃん』を観て育ってきましたし、原監督が初めて実写を撮られるということで、記念すべきものになると思いました。原監督の初めてにご一緒したい! と強く思ったんです」と述懐。今回、原監督との再会が叶い、「原監督のアニメーションは、誰だって出たいと思うものだと思うんです。声のお仕事は緊張もしますし、お邪魔しますという気持ちも強いですが、またご一緒できてとてもうれしかったです」と喜びをにじませる。
演じたアカネは、自分に自信が持てず、冒険の始まりにも「できっこない」と弱音を吐いてしまう少女だ。力強く女優道を歩んでいる松岡だが、「私も自分に自信はないです」と告白しながらも、「でも私、思えば生まれてからずっと前のめりなんです」と明かす。「劇中、“前のめりの錨”というアイテムが出できます。アカネが後ろ向きになりそうになると、その錨が引っ張ってくれるのですが、私は“前のめりの錨”はいらないですね(笑)。いつだって前のめりだから」
2018年11月に行われた「第10回TAMA映画賞」の授賞式は、彼女のがむしゃらさが垣間見えた一幕だった。最優秀女優賞を獲得した松岡は、先輩女優・安藤サクラへの「くやしい」という思いを正直に告白した。「サクラさんにいつか追いつきたい、追い越したい」と熱っぽくスピーチしたが、そのことに触れると「暑苦しいですね、私」と苦笑い。「これまでも、くやしい思いをたくさんしてきました。でも誰かに対して“くやしい”と思うことは、とてもうれしくて、気持ちがいいことだと思うんです。くやしいと思うことは、3秒に1回くらいあります(笑)。自分の嫌なところにばかり目がいって、悶々と答えのないことを探し続けているときのほうがしんどいですね」とくやしさもパワーに変えている。
必死に前に進む理由は、自分の携わる仕事が、誰かの心を動かすことができるものだと実感しているからだ。「お仕事には、責任が伴うもの。責任感を持ってお仕事をしたい」とまっすぐな瞳を見せ、「作品を受け取ってくださる方がいると思うと、とても力になるんです。私、舞台挨拶も大好きで。歌手やアイドルの方は応援してくださる方と会う機会があるかと思いますが、俳優にとってそういう場は少ないもの。作品が誰かのもとに届いて、誰かの心を動かしていると思うと、本当にうれしいです。そういった方の顔を見られる舞台挨拶は、一番好きなお仕事かもしれないです」としみじみと語る。燃えたぎる情熱が、彼女を内面からも輝かせている。高みを目指し続ける松岡茉優のこれからが、ますます楽しみになった。(取材・文:成田おり枝)