『ラスト サムライ』の監督が10年かけて完成させた冤罪死刑囚の実話
映画『ラスト サムライ』『ブラッド・ダイヤモンド』のエドワード・ズウィック監督が、新作『トライアル・バイ・ファイア(原題)/ Trial By Fire』について、主演のジャック・オコンネル、ローラ・ダーン、そして脚本家のジェフリー・フレッチャーと共に、5月15日(現地時間)ニューヨークのAOL開催のイベントで語った。
冤罪の可能性があったにも関わらず、死刑になったキャメロン・トッド・ウィリンガムの実話を基にした本作。貧しい家庭で教育もほとんど受けずに育った犯罪歴を持つトッド(ジャック)は、放火で3人の子供を死なせた殺人罪で死刑の判決を受け、12年もの間刑務所に入っていた。ある日、エリザベス・ギルバート(ローラ)と出会ったことで、彼女に冤罪(えんざい)を主張して助けを求めていく。2009年にニューヨーカー誌に寄稿されたデイヴィッド・グランの記事を、『プレシャス』でアカデミー賞脚色賞を受賞したジェフリーが手掛けた注目作だ。
エドワードが今作に関わり始めたのは10年前からだそうだ。「僕ら製作陣は、この記事を読んでとても感動したんだ。我々にできたのは、(その記事を基に)映画化することだけだった。でも、まさか10年もかかるとは思わなかったよ」と語った。投資家にとって、商業的に賭けをできる作品ではなかったことが時間のかかった要因だという。しかし、その間にジェフリーが充分な時間を脚本に費やし、パーフェクトなキャスト陣を配役したことで、製作することができるようになったそうだ。
ローラは、脚本を読む前にデイヴィッドの記事を読んだそうだ。「彼の記事は、裁判の深部と不公平さを捉えていて、その記事を脚色したジェフリーの脚本も素晴らしかった。(エリザベスが行なった)小さな親切は当人同士だけでなく、思想や司法制度にまで影響を与えたの。トッド事件をただ描くのではなく、そのことを伝えようとしているエドワードの情熱に、私は感動したわ」さらに、自身が演じるエリザベスに直接会い、話を聞いたそうだ。「彼女は、人生を通して(夫の)胸が張り裂けるような思いや(子供を失った)トラウマ、最終的にトッドに起きたことを体験したにも関わらず、とても寛大だったわ。トッドの個人的な手紙のやり取りを共有してくれたのだけど、それにはエリザベスとトッドがいかに関係を築いたか記されていて、わたしとジャックにはとても役に立ったわ」とエリザベスに感謝した。
トッド自身は、刑務所に入ってからは規律のある生活を送り、読書をするなど勤勉になって、全く別の人物に変わっていく。そんなトッドについて、ジャックは「彼は(刑務所に入ってから)より思慮深くなり、ひどい状況であることを、ある意味受け入れようともしていた。なぜなら、(無実なので)精神的に毎日葛藤していて、非常に疲れることがわかっていたからだと思う。もしかしたら、狂気に取りつかれてしまうかもしれない。現に自分自身で教養の幅を広げるか、思考範囲を広げるかくらいしか、やることはないからね」と閉ざされた中で暮らしていたトッドの気持ちを説明した。映画は、死刑執行が近づく中で、刑務所を訪れたローラ演じるエリザベスとジャック演じるトッドの掛け合いが秀逸だ。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)