矢本悠馬、高校生役は「難しい」父親役で実感した変化
実年齢が20代後半でありながら、連続ドラマ「べしゃり暮らし」や「今日から俺は!!」、映画『賭ケグルイ』『ちはやふる』シリーズなど、制服を着た高校生を演じることが多かった俳優・矢本悠馬。そんな彼が「しっかり自覚して父親役をやったのは初めて」という映画『アイネクライネナハトムジーク』が公開中だ。矢本が「自分にとっては重要な作品」と発言した真意に迫る。
矢本悠馬が“父の顔”を見せる!『アイネクライネナハトムジーク』写真
本作で矢本が演じたのは、三浦春馬ふんする主人公・佐藤の学生時代からの親友で、2児の父である織田一真。調子が良く、家ではゴロゴロし、セクシーなDVDを隠すことなくリビングに放置するなど、子供からは鬱陶しいと思われているちょっとダメな父親だが、ハートフルで憎めない一面も持つ愛すべきキャラクターだ。メガホンをとった今泉力哉監督も、伊坂幸太郎原作を実写化するうえでの成功のカギは、「キザなセリフを一人のキャラクターに集約させること」と話していたが、その役を担うのが一真であり、矢本の存在を頼りにしていたと話していた。
矢本といえば、現在29歳であるにもかかわらず、制服を着た高校生役を務めることが頻繁にある。どの作品もしっかりと高校生に見える若々しさは矢本の一つの武器にも感じられるが、本人は「正直言うと、さすがにコメディー以外で高校生は厳しいですね」と胸の内を明かす。「青春ドラマのセリフを言うとき、自分でも経験談として理解はできるのですが、身体に乗せてセリフを発したとき、自分の耳が拒絶するというか、嘘に感じてしまうんです」
そこには矢本なりの学生役への定義がある。「学生って自分自身が分かってないから、突拍子もないことができるし、言えるんだと思う。でも僕は、人生経験を積んできているから、ほとんどのセリフを理解しながら言っちゃうんです。学生なんて青臭さがあってナンボだと思うのですが、そこは芝居の技術でごまかせても、やっぱり説得力では本物には勝てないんですよ」
その意味で、本作で父親を演じたことは矢本にとって非常に大きかったようだ。ややダメ親父という人物設定だったため、撮影前にはラーメンをたくさん食べて、身体に厚みを持たせて作品に臨んだという。「いやーでかいですね。正直、自分に父親役なんてやれるのかなと思っていたのですが、このタイミングでやれたというのは、すごくありがたかったです」と破顔する。
「このタイミング」という意味では、矢本の私生活にも結婚・第1子の誕生という大きな変化があった。撮影前はまだ父親になっていなかったため、「父親像を想像するとき、最初に頭に浮かんだのは、自分の親なんです。うちはわりと友達感覚な親父だったので、一真も自然とあまり父親っぽい感じにはならなかったんですよね。子供との接し方も、どうしても想像の範囲内でのリアリティーだったんです」と役へのアプローチを語っていたが、撮影を挟み、矢本は結婚し父親になった。
「父親になる前に台本を読んだときと、自分が父親になって出来上がった作品を観たときは感じ方が全然違いました」と、親になったことで心境に大きな変化があった様子。「劇中で、一真が『由美(妻)と俺の繋がりはベリーベリーストロングになったんだからよ』ってよく分からないセリフを言っているのですが、あれがすごく響いたんです。確かに、自分の子供ができて、これから奥さんになる人がいて、そうなったとき、自分も割とベリーベリーストロングだったんです」と照れ笑いを浮かべる。
さらに矢本は、本作を通して“人が巡り合う偶然性”が心に刻まれたようだ。「深く考えることも大切だけれど、人生って衝動的に決めることって結構強いものだなと感じるんですよね。ノリとタイミングって人生においてはかなり大事だなと思いました」。(取材・文・撮影:磯部正和)