超実写『ライオン・キング』撮影現場が公開!追い求めた映像作りの原点
映画『アイアンマン』(2008)や『ジャングル・ブック』(2016)を手掛けたジョン・ファヴロー監督が、ディズニーの名作アニメーションを最新のCG技術で映像化した『ライオン・キング』。全編CGとは思えないほどリアルな映像に圧倒される本作は、すでに全世界興行収入10億ドル(約1,100億円・1ドル110円計算)を突破する大ヒットを記録中だ。CGやVFXをふんだんに使用したハリウッド大作は珍しくはないが、ネイチャードキュメンタリーと全く見分けがつかないほどリアルに表現された世界観は、まさに革新的と言っていい。遡ること約1年半前、本作を製作中のアメリカ・ロサンゼルスにある制作スタジオを訪ねた。そこは、実写制作とバーチャルなプロダクションが融合したような、見たことのない撮影現場だった。
19歳の新鋭が歌うサークル・オブ・ライフ『ライオン・キング』MV
現場に到着すると、ファブロー監督の案内でスタジオ内へ。大自然が舞台の本作だが、スタジオにセットは一切なく、部屋中にセンサーを読み取るカメラが配置されており、名撮影監督のキャレブ・デシャネルがバーチャル・リアリティ(VR)ゴーグルを装着して、カメラを操作していた。スタジオ内には、実写で使う移動撮影用のドリーやレール、ステディカム、クレーンなどが用意されている。
まるで、モーションキャプチャー(俳優の演技をデジタル化する技術)用のスタジオのような屋内。「僕らはここで、実写映画を撮っているときに、偶然起きるようなことを捉えようとしているんだ。アニメーション映画や、CGをふんだんに使うシークエンスでは、全てが事前にプリビズ化(CGアニメ化)されているから、フレームが完璧になりすぎる。アニメーションとしてはそれでいいけど、この映画は実写のように見える作品だからね。本物の動物たちを見ているかのような、(偶発的な)マジックがほしいんだ」とファブローは説明する。
動物たちの動きは全て事前にアニメートされている(決められている)が、それらを本編で使用する映像としてフレームで切り取る際は、通常のアニメーションと違い、実写映画のように、カメラマンがカメラ(ここではバーチャルカメラ)を操作して絵を作っていくという。
「ドリーやクレーンを操作する人々や、彼らとカメラマンがどうやりとりするかなど、何人もの人が関わることで、実写のように、テイクごとに全てが少しずつ変わる。そのフッテージを編集者に渡しそれを編集する。だから、実写映画のように、撮ったなかでも最高のショットを編集していることになり、多くのフッテージが無駄になる。でもそれが、実写ならではのリズム感や、事前に予想できないクオリティーを映画に与えることになるんだ」
しかし、そういった技術的に最先端の映画作りについて、『アリス・イン・ワンダーランド』などを手がけたプロデューサーのトム・パイツマンは、「列車が来る直前に線路を敷いている感じだよ」と表現。また、『美女と野獣』などで知られるもう1人のプロデューサー、ジェフリー・シルヴァーは、「全てが進化していて、全てが同時に起こっている感じだ。(キャラクターを)デザインしながらアニメーションとして動かし、それを撮影し編集している。スタッフみんながVFXを多用した映画を手がけてきたけど、映画作りのすべてのプロセスが重なり合っているのは実に驚くべきことだよ」と付け加えた。
『ジャングル・ブック』や『タイタニック』などでアカデミー賞の視覚効果賞を3度も受賞しVFXを知り尽くしているロバート・レガトにとっては、リアルな映像を作るだけでなく、感動を伝えることも大きなチャレンジだったという。
「見ているどんなものにもエモーショナルな興奮がある。例えば、アフリカに行くとリアルな感覚をつかめる。人類の生誕の地だと感じさせるどこかスピリチュアルなものがある。そして、何か人工的なものを作る時、そういうフィーリングをとらえようとする。人々を感動させるくらい十分に本物らしいものにしようとする。でも、それはそんなに簡単なことじゃない。なぜなら、それはフィーリングだからだ」
「時々ちょっとしたシンプルなものが、ある感覚を再現する。だから明確じゃない。教科書もない。誰かから学ぶこともできないよ。でも、それが映画のマジックなんだ」
テクノロジーの進歩により技術面でどんな映像も作り出せるようになった最先端の作り手たちが、「何がリアルで、何が人を感動させるのか?」という、まるで映像作りの原点といったものを考えさせられることになったのは興味深い。この『ライオン・キング』の興行的、作品的成功が、今後のハリウッドの映画作りに大きな影響をもたらすことになるのは間違いないだろう。(細谷佳史)