大東駿介「いだてん」敗者の物語に感動 人見絹枝メイン回で号泣
大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」(NHK総合・日曜20時~ほか)で「参加することに意義がある」というオリンピックの概念を「勝たなければ意味がない」とレベルアップさせた阿部サダヲ演じる主人公・田畑政治(たばだ・まさじ)。そんな田畑の期待に応え、日本水泳界初の金メダリストとなった鶴田義行(つるた・よしゆき)を演じた大東駿介が、本作ならではの魅力や、座長を務める阿部への信頼感を語った。
大東演じる鶴田は、専門的な指導を受けることなく水泳の全国大会で優勝し、1928年アムステルダムオリンピックでは200メートル平泳ぎで、日本水泳界初の金メダリストに輝いた俊英。続く1932年のロサンゼルスオリンピックでは、若手の小池礼三(こいけ・れいぞう/前田旺志郎)にエースの座を譲る状況での大会出場だったが、何事にも動じない度胸で、日本選手団の精神的支柱となる人物だ。
第2部からの登場となった大東だが、いち視聴者としても「『いだてん』が大好き」とファンであることを強調する。大東がたまらなく惹かれるのは、本作が「敗者の物語」だからだという。「人見絹枝(ひとみ・きぬえ)さんがメインの第26回『明日なき暴走』の回を観て僕は号泣してしまった。今の世の中、失敗に対してすごく厳しい目が向けられる。人見さんも負けてしまったら日本に帰れないという極限のプレッシャーのなか、一度は負けてしまいます。でも、そこから恐れることなく、再度チャレンジして結果を出した。(中村勘九郎演じる)金栗四三(かなくり・しそう)さんもそうですよね。失敗しても前に進む力がメッセージとして伝わる。歴史って失敗によって作られていくんだと思うんです」
自身が演じた鶴田や斎藤工ふんする日本水泳界の大スター、高石勝男(たかいし・かつお)もそうだ。アムステルダムオリンピックで結果を残したものの、次の大会では若手に主役を奪われる。しかし結果が出ずともあきらめず前を向く。「僕もこれまでの経験で、敗北を感じたことや悔しいと思ったことはたくさんありましたが、いま思い返せば失敗して得たことの方が限りなく多かったと思うんです。負けたらあきらめるのではなく、その先にあるものをしっかり掴む生き方をしたいと思わせてくれるんです」と作品の魅力を語る。
また座長として第2部を引っ張る阿部からも多くのことを得られたという。「すごくシャイな方なので、阿部さんから積極的にコミュニケーションをとるわけではないのですが、現場では主役の器を感じました」と絶賛する。最も強く感じたのが「大河ドラマ」という概念にとらわれない芝居だ。
「阿部さんと(日本代表水泳監督・松澤一鶴(まつざわ・いっかく)を演じた皆川)猿時さんが、最初から『こうやらなければいけないんだ』という足枷を排除してくれました。ものすごい速度のセリフ回しにも関わらず、聞き取りやすく切れ味も抜群。まーちゃんという役と阿部さんの相性の良さもあると思いますが、芝居の懐を広げ、つけ入る隙を与えてくれました」
水泳日本代表チームの雰囲気は最高だったという。大東は「すべて阿部さんの力だと思う」と絶大なる信頼を寄せていたことを明かすと「調子に乗って、山ほどピザを注文して、請求書だけ阿部さんに渡したのですが『全然いいよー』と受け取ってくれるような懐の深さがあるんです」と芝居だけではなく人柄にも心酔しているようだ。
「ドラマとしての面白さがありつつ、情報としてのスポーツの歴史もしっかり見せてくれる」と知的好奇心を深めてくれる作品であることを強調。二連覇をかけて挑んだロサンゼルスオリンピックのクライマックスシーンについて「胸を張って泳げました」と晴れやかな表情を見せた。(取材・文:磯部正和)