星野源、内気な侍に共感「好きなことが自立への柱に」
星野源が、初主演映画『箱入り息子の恋』以来、約6年ぶりに実写映画の主演を務めた時代劇コメディー『引っ越し大名!』が、間もなく公開される。星野が演じたのは本の虫で、人と関わりたがらない内気な侍。しかしある日、「国替え=引っ越し」の総責任者という大役を押し付けられ、その壮大なミッションに臨むうちに成長していく。そんな主人公像に、かつて家にこもっていた時期の自身を重ね、「好きなものに没頭し、エネルギーを溜め込んだ大切な期間」と振り返った。
原作は土橋章宏の「引っ越し大名三千里」。先に映画化され、大ヒットした『超高速!参勤交代』シリーズで知られる人気作家で、今回も自ら脚本を担当しており、手元に届いたこのシナリオを一読した時点で星野は出演を決めた。「ユニークな視点の面白さに惹かれましたね」と彼が語る通り、またもや時代劇の新ジャンルを開拓した作品と言えよう。
星野が演じるのは姫路藩の書庫番で、性格は内向的。人と話すのが苦手な、書庫に引きこもって本ばかり読んでいる侍・片桐春之介。この男が“引っ越し奉行”に任命されたことから起こる大騒動がコミカルに描かれる。当時の引っ越しは“国替え”と呼ばれ、全ての藩士と家族が移動し、桁外れの費用と労力を要するものだった。春之介は、その国替えの総責任者。“引きこもり侍”と揶揄(やゆ)されていた彼が一念発起し、知恵と創意工夫とで臨んでいくのが見どころだ。
音楽家でもある星野は、今年の2月から3月にかけて初の5大ドームツアーを敢行。33万人を動員し、大成功を収めた。いわば時代の寵児であるが、「分類すれば自分も、春之介と同じタイプ」だという。学生時代の引きこもり期のことを振り返ると、春之介が他人とは思えないとも。「外から見れば春之介は、社会からの逃避者になるのでしょうけれど、僕には好きなものに没頭し、エネルギーを溜め込んでいる大切な期間のような気がしたんです。その期間があったからこそ、今こういうふうに人前に出られるようになったとも思っています。映画の前半部で春之介は一度、切腹へと追い込まれていくのですが、そこでついに生のエネルギーが爆発して、眠っていた長所が目覚め出す。そのシーンは自分の実感を伴わせながら、彼の奔流するエネルギーを表現しようと努めました」
迷走しがちな春之介は、周囲の仲間たちの助けを借りながら、何とか藩の財政を把握し、必要な予算を算出。できる限り人と物の両面でスリム化を図るのと同時に、資金を調達すべく走り回る。現代の“サラリーマンもの”を目指したという犬童監督は本作について、「リーダー論」を説いているとも。それを受けて星野はこう語る。「局面に応じて春之介は自分の尺度で考え、行動しているだけなのですが、その発想の仕方があの時代の中では独特なんです。スリム化を図るため、ものを捨てることを提案するのですが、『捨ててください』とお願いしている張本人がやらないでどうすると、春之介は自発的にある決断をすることになる。ここではリーダーとしての素質がうかがえます」
気が弱くて不器用なキャラクターは、大ヒットしたドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(2016・TBS系)を想起させるが、物語が進むにつれて春之介は次第に成長し、どんどんたくましくなっていく。そんな春之介に、星野は「僕がこの映画が好きなのは、(主人公が)好きなものを捨て自己否定の末にブレイクするのではなく、あくまで好きなものが社会に出たときの自分を救い、支える自己肯定の物語なところ。得た知識や好きな物の蓄積が、自立への柱になるんです」と思いを巡らせる。
共演に高橋一生、高畑充希、及川光博、小澤征悦、濱田岳、西村まさ彦、松重豊ら。今年10月に吉永小百合&天海祐希共演『最高の人生の見つけ方』の公開も控える犬童一心が監督を務めている。(取材・文:轟夕起夫)
映画『引っ越し大名!』は8月30日より全国公開