是枝裕和監督、映画祭で確認する「大きな映画」の中の自分
第76回ベネチア国際映画祭
新作『真実』(10月11日公開)が、イタリアで開催中の第76回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品されている是枝裕和監督が開催期間中に現地で取材に応じた。
この日のインタビューはベネチア映画祭の会場内にあるホテルの一室で実施された。ベネチアに入ってからの是枝監督は取材の対応が続き「今回は取材を受けている間に終わってしまう感じです」と映画祭を満喫できているという様子ではなかった。それでも、外国人記者から「『違和感のないフランス映画になっている。なぜ撮れたの?』という質問がけっこうありました。『母国語ではない言葉の映画を異国で撮るとコミュニケーションがうまくいかず、ベストな状態にならないことがあるのに』と。褒め言葉なんじゃないかな」と振り返って少し嬉しそうに笑った。
これまで数々の作品で海外の映画祭に参加してきた是枝監督は、「映画祭」でどんなことを感じているのか。「映画が一番リスペクトされる空間の中にいる、みんなが映画という文化を尊重しているということに触れるのは、作り手にとってとても大事なことです」と口を開く。
「映画という百数十年続いてきたものに自分が身を寄せている感覚。畏れも含めて、大きなものの一部であるということを感じる瞬間。映画祭ではそれが大事だと思っています。自分が向き合っている自分より大きなものに出会うんです」
「映画祭ではみんなが『“映画の”住人』という感覚になります。だから国旗を振って入ってくるわけではありません。そこが映画祭のいいところなんじゃないかなと思います」
そんな是枝監督は、映画祭の最後に行われる授賞式で自身の作品がどの位置にあるのかはそこまで重要なことではないと繰り返す。それは自分だけではなく、ほかの映画監督たちも同じように考えているのではないかと感じているそうだ。
カンヌ映画祭のパルムドールを受賞した『万引き家族』に続く作品。ベネチア映画祭の最高賞にあたる金獅子賞の受賞を期待する声や報道が日本では多いが、「獲りにきている監督もいるのかもしれないですけど」と前置きしつつ、「100メートル走みたいに同じレースを走るわけではないですから。もう作品はできあがっていますし」と話す。
「映画祭の哲学とか参加する側の思惑によって変わってきますが、映画祭側は2019年の現時点での映画の世界地図、映画が今世界でどういう風につくられているという世界地図を描こうとコンペ作品を選んでいると思います。そして映画祭はお祭りなんです。お祭りの最後にその地図を一列に並べ直して順番をつけるということをイベントとしてやっているくらいの意識です。お祭りの『本質』とは僕は関係ないと思っています」
日仏合作の『真実』には、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホークといった世界の名優たちが参加している。国民的女優のファビエンヌ(ドヌーヴ)とその娘で脚本家のリュミール(ビノシュ)の2人を中心にした家族の物語で、是枝監督は脚本も担当した。セリフがフランス語の同作はベネチア映画祭ではイタリア語と英語の字幕とともに上映され、散りばめられたユーモア、練り上げられた脚本が各国から集まった映画ファンを一つにし、魅了していた。(編集部・海江田宗)
第76回ベネチア国際映画祭は現地時間9月7日まで開催