山田洋次監督、寅さんは死なない 拍手が鳴り響く
山田洋次監督、倍賞千恵子、前田吟、佐藤蛾次郎ら、映画『男はつらいよ』シリーズの監督・出演者が2日、葛飾・柴又で開催中の「寅さんサミット2019」内で行われた特別座談会に出席し、会場から「おかえり!」と祝福の声援を浴びた。
映画『男はつらいよ』のロケ地となった地域が葛飾・柴又に集まり、各地のグルメや伝統芸能とともに寅さんの世界を堪能できる「寅さんサミット」も今年で5周年。さらに今年は『男はつらいよ』第1作公開から50年という節目の年を迎えたことから、記念イベントとして今回の座談会が行われた。山田監督をはじめ、さくら(倍賞)、博(前田)、源公(佐藤)ら寅さんにゆかりのある人々が一堂に会し、会場からの「おかえり!」の声に対して4人も「ただいま!」と笑顔で返した。
12月27日からは、シリーズ第50作となる最新作『男はつらいよ お帰り 寅さん』が公開される。「はじめてその話を聞いたとき『え? わたしはどうなるんですか?』と思わず言っちゃったんです」と笑いながら切り出した倍賞は、「さくらさんは、お亡くなりになった八千草薫さんと一緒で(寅さんが幼少期の頃に、第10作のマドンナ千代と、さくらを「らっきょ」とからかったエピソードから)らっきょ型でやっていましたから。でも今はそういう髪型が出来なくなったので、どうしたらいいでしょうと(監督に)相談したら、そのままでいいんだよと。ただ前田吟さんと一緒にいても『なんか若いんだよね。もっと老けてほしいんだよ』と言われて。でも源ちゃんは75歳と言っていましたけど、わたしは78歳ですからね。いなくなったお兄ちゃんを思いながら、撮影に入っていきました」と述懐。
また、自分の過去の映像を観て「かわいかったですね。感動しちゃうくらい。自分なのに涙がぽろぽろ出るくらい」と感じたという倍賞は、新作の撮影を振り返り「さくらさんはなんて素敵な旦那様に愛されていたんだろうと思いましたね」としみじみ付け加えた。
そして「当時の日本人は、今の日本人よりも幸せだったと思うんです。あの頃は未来があったし、若者も元気でしたから」と続けた山田監督は、「寅さんはそんな時代に生まれているんです。めちゃくちゃでどうしようもないと言いながらも、ひとりの人間として、仲間として見ていた。今の時代は、ずいぶん窮屈になってしまったなと。自由でノビノビできないし、寅さんみたいないたずらは許されない。僕は男の子というものは悪いことをして成長していくものだと思っているんです。そういうことがだんだんと出来なくなってきて、それで僕たちは幸せなのか。映画を観て感じていただければいいなと思っています」とコメント。そして「寅さんはどこかにいるんです。彼は死なないんです」と付け加えると、会場から拍手が鳴り響いた。(取材・文:壬生智裕)