本木雅弘、斎藤道三に独自の解釈 マムシの異名を取る戦国武将は「有能なビジネスマン」
戦国武将・明智光秀の謎めいた前半生を描く大河ドラマ「麒麟がくる」(1月19日スタート、NHK総合・日曜20時~ほか)。本作で明智家の主君である美濃の守護代・斎藤道三を演じるのが、1998年放送の「徳川慶喜」以来、約22年ぶりの大河出演となる本木雅弘だ。“美濃の道三”と言えば、一癖も二癖もある戦国武将。そんなキャラクターに本木はどんなアプローチ方法で臨んだのか。
開口一番「とにかく僕は歴史に疎く、お恥ずかしながら道三という人物も、あまりよく知りませんでした」と苦笑いを浮かべた本木。だからこそ先入観を持たず、独自の解釈で道三のポジティブさにフォーカスしながら役をつかんでいった。「資料を見て感じたのは、有能なビジネスマンという側面があったのかなということ。戦国時代は、戦が仕事だと考えると、大軍を率いて指示を出し相手に打ち勝つには、それ相応の戦略がなければ乗り切れない。ネットなどで調べると“マムシ”や“梟雄(きょうゆう)”などという言葉が並び、勝つためには手段を選ばぬ非情なところがあるようですが、その合理性もひっくるめて道三の才能だと捉えています」
さらに池端俊策の脚本を読んだとき、道三という人物がさらに広がりを見せたという。「池端さんが描く人物は、とても喜怒哀楽が豊か。人生50年という時代のなか、みずみずしく濃く生きたのかなと。光秀や信長を見出す目があるということは、ただ野心の塊ではなく、人間への興味があったはず。そんな道三なりの人への愛情が零れ落ちる瞬間を見せていきたい」と意気込む。
光秀役の長谷川博己とは主君・家臣という役柄。共演は、2012年の日曜劇場「運命の人」以来となる。当時の印象を「爽やかで素直。自分を強く主張しないが、自信はありそうな雰囲気」と振り返るが、本作では「長谷川さんはほとんどが受け身の芝居です。状況を自分なりに咀嚼し、どんどん判断力を高めていく役。密かに強い心を携えているところが、光秀と通じています」と評していた。
そんな光秀に無理難題を吹っ掛けるのが道三だ。「頻繁ではありませんが重要なやりとりをしています。会うたびに長谷川さんのなかで光秀が育ってきている感じがする」と語ると、光秀と共にどんどん吸収力を増していく長谷川が「とても頼もしい」と目を細める。さらに本木自身も「役者としてもさらに長谷川さんを刺激できたらという思いがあるので、道三なりの変化球を投げていきたい」と二人が対峙するシーンの期待を煽る。
本木にとっては22年ぶりの大河ドラマ。「浦島太郎状態でしたね」と笑うと、当時にはなかったドローンでの空撮や最先端4Kカメラの奥行きのある映像など、驚くべきことが多かったという。一方で、プロフェッショナルなスタッフたちが、リハーサル室に一堂に会する顔合わせのカオスな光景は当時とまったく変わりがなく「この規模、人材の厚みが大河の醍醐味だな」と大河独特の雰囲気を改めて感じ入った様子だ。
また22年前の「徳川慶喜」で共演した堺正章が本作では、光秀を導く京の医師・望月東庵役で登場する。当時50代半ばで、現在の本木と年が近かったという堺が「キャリアを積むと叱ってくれる人がいなくなる」と嘆いていたことが印象に残っていると話すと「確かにスタッフも年下が中心になっていて、改めて年を重ねたんだなと感じると同時に、自分がわかっているとは思わずに常に初心のつもりでと肝に銘じ、物事に向き合わなければ」と気を引き締めて撮影に臨んでいるという。
話を聞いているだけでも“人間臭い”道三を期待してしまうが、一方で「とてもヘビーですよ」と難役であることを強調する。その際に「自分の力だけではどうにもならない部分は、メイクや衣装、照明などの総合力に助けられています。衣装デザイナーの黒澤和子さんが、道三には柄と柄を合わせ、さらに紗(しゃ)のかかった羽織を用意してくれました。このレイヤーがまさに道三の多面性をイメージしているような感じがして、こうしたものを武器に挑んでいます」
池端から「究極の選択を迫られたとき、最後は感情で動く」と聞かされた本木は「戦国武将は感情を置き去りにして物事を決断すると思っていたので、すごく新鮮な気持ちが沸いてきました」と胸の内を明かす。その考えに基づき、本番では抑制することなく、時に感情で突き進む芝居を心がけているという。本木は「小さなトライです」と控え目に語っていたが、本木“道三”が物語の前半を引っ張ることは間違いないだろう。(取材・文:磯部正和)