「全裸監督」のカメラマンも参加の『強がりカポナータ』が聖地で上映
ピンク映画ながらテアトル新宿やアップリンク渋谷で公開されたほか、香港の第15回InDPanda国際映画祭でも上映という異例の展開を見せた『新橋探偵物語』(2018)の横山翔一監督の新作『強がりカポナータ』が、1月21日まで横浜・日ノ出町の横浜光音座1で公開中だ。同館は関東圏唯一のゲイ映画専門上映劇場で、12日に舞台あいさつを行った横山監督は「初めて作ったゲイピンク映画を“聖地”で上映できて光栄です」と立ち見客まで出た会場を見渡しながら感無量の面持ちで語った。
『強がりカポナータ』は老舗・大蔵映画系列のOP映画提供によるR18+作品。海辺の小さな町を舞台に、稼業の継承や親の介護と“家”に縛られて生きてきた武(伊神忠聡)の人生が、元恋人・一義(折笠慎也)や謎めいた人物・彰(後藤剛範)の出現で新たな展開を迎えることになる男の色香と人間ドラマが交錯する。
かつてピンク映画は日本映画界の人材育成を担っていたが、本作もその伝統を受け継いでいる。スタッフやキャストは横山監督の大学時代からの演劇仲間が中心で、脚本は演劇ユニット「ろりえ」を主宰する奥山雄太が前作『新橋探偵物語』に続いて担当。またNetflixオリジナルドラマ「全裸監督」でカメラマンのラグビー後藤を演じていた後藤剛範が、筋骨隆々の肉体を惜しげもなく披露しているのも話題だ。
本作の企画は、『新橋探偵物語』から発生したそうで、劇中に登場する映像制作会社内に掲示する虚構の映画ポスター「たけしとかずよし」用に、簡単なあらすじを考えながら主演の伊神と折笠にふんどしを締めさせて撮影したところ「この2人で実際にゲイピンク映画を撮ってみたい」(横山監督)という衝動に駆られたという。
その意気込みは映画の随所に見られ、通常のピンク映画同様、制作費は決して潤沢ではなく撮影日数も限られていたが「やりたいことを全部やってみた」と横山監督。海辺に松明(たいまつ)を焚いての情熱的な性愛シーンに、ドローンを使った空撮、こだわりの料理シーンなど繊細かつ野心的なシーンが満載だ。
ただし台風が近づく中での、砂浜でのくんずほぐれつシーンは俳優陣にとっては苦労が多かったようで、この日行われたトークイベントでも話題の中心に。後藤が「(絡んでいた)伊神さんが危うく波にさらわれそうになっていた」と告白すれば、伊神も「撮影が終わってからも1週間は、体のあちこちから砂が出てきた」とまさに体当たりの“艶技”だったようだ。
なお、男性の娯楽の場である同館は通常、女性の入場は制限されているが、舞台あいさつが行われた回は一般に開放され、この機会を逃すまいと女性も多数来場した。登壇した女優・秋乃ゆにも「光音座さんに女性が入るのは難しいと聞いていたので、個人的にすごくうれしい。貴重な1日を過ごさせていただきました」と語り、今や全国でも数少なくなった成人映画館を満喫したようだ。(取材・文:中山治美)
映画『強がりカポナータ』は横浜光音座1にて21日まで上映