宮沢氷魚の圧倒的な透明感…『his』が描く男性同士の恋愛のその先
宮沢氷魚が映画初主演を務め、『愛がなんだ』などの今泉力哉が監督を務めた『his』が24日に公開。男性同士の恋愛をテーマにした本作で、宮沢が透明感あふれる演技を披露している。
宮沢が演じるのは、周囲にゲイだと知られることを恐れ、ひっそりと田舎暮らしを送っていた井川迅。彼は高校時代に初恋の相手となる渚と出会い、お互いの気持ちを確かめ合った。しかし、大学卒業を控えた頃、渚から「一緒にいても将来が見えない」と突如別れを告げられていた。
その出会いから13年後、迅のもとに6歳の娘・空を連れた渚が突然現れる。戸惑いを隠せない迅だが、いつしか空も懐き、周囲の人々も3人を受け入れていく。そんななか迅は、渚が妻と離婚と親権の協議をしていることを知る。そして、2人のもとにやってきた彼女は空を東京に連れて戻してしまう……。
物語では、8年という歳月を経て、突然娘を連れて現れた初恋の相手を迅がいかにして受け入れるのか、という恋愛をはじめ、LGBTQの人々と古くから保たれてきた共同体との共存、親権を争う法廷劇、多様に変わりつつある家族の姿、さらにはシングルマザーの過酷な現状といった、さまざまな問題が描かれていく。
そんな本作の魅力は、マイノリティー/マジョリティーという二項対立にストーリーを回収するのではなく、登場人物のすべてが社会を構成する一員として等しく描かれ、いわゆる偏見と無知にまみれた典型的な悪役も登場しない、ということ。マイノリティーであることを自覚し、これまでの人生でさまざまなことを諦めて生きてきた2人や、その周囲の人々が既存の目には見えない境界線を越えていく物語であるといえる。
そんな迅を演じる宮沢はアメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコ生まれ。「僕は光栄なことに、小さい頃から多国籍、多文化な環境で育ちました。同級生にはゲイ、バイセクシュアルの人もいて、LGBTQへの認識や理解は常識だと勝手に思っていましたが、日本ではまだまだそんなことはなく、何もできない自分にむずむずしていました。今回このお話がきて、素直に嬉しく、絶対に引き受けたいと思いました」と意気込みを語っていた。
そんな宮沢は、昨年放送の連続ドラマ「偽装不倫」で杏と共演し、一躍ブレイク。『his』でも繊細さを体現する佇まいで、静かに葛藤する主人公を好演している。そして、撮影期間中に同じ部屋に泊まって共に時間を過ごしたという、相手役の藤原季節とのコンビネーションにも注目だ。(編集部・大内啓輔)
映画『his』は公開中