オスカーメイク賞最有力のカズ・ヒロ、授賞式前日に思い語る
第92回アカデミー賞
現地時間8日、第92回アカデミー賞メイク・ヘアスタイリング賞の候補者たちを集めて行われる、毎年恒例の「オスカーウィーク:メイクアップ・アンド・ヘアスタイリング・シンポジウム」が、米ロサンゼンスのビバリーヒルズにあるAMPAS(映画芸術科学アカデミー)の本部で開催され、『スキャンダル』でノミネートされているカズ・ヒロ(旧:辻一弘)が、授賞式前に思いを語った。
一昨年に『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』でオスカーを受賞したメイクアップ・アーティストのカズ・ヒロ。今年は英国アカデミー賞の受賞もあり、2度目の受賞が確実視されているが、受賞の手応えについては「明日にはわかります(笑)」と一言。再びオスカーにノミネートされたことについて、「とても光栄に感じています。何よりも、これらの素晴らしい役者たちと一緒に、この素晴らしい映画の仕事をできたことがもっとも嬉しかったことです」と話した。
今回カズ・ヒロは、『ウィンストン・チャーチル』と同様に、俳優を実在の人物に近づける特殊メイクに挑戦した。トップスターのシャーリーズ・セロンを、アメリカでは誰もが知る元FOXニュースキャスターのメーガン・ケリーという女性に変身させるという偉業を成し遂げた。「とても難しかったですね。僕はシャーリーズのことを、醜くなるようにはしたくなかったんです。彼女を見て、(メーガンだと)信じることができて、同時に魅力的に見えるようにすることはとても重要でした。それはとても失敗しやすいことなんです」
その難しい仕事は、シャーリーズの協力があって成し遂げられた。「彼女は僕がこれまでに一緒に仕事をしたなかでも、最高の役者でした。とても優しくて、知的で、親切で、愛情深い人なんです」
特殊メイクを施す場合、役者は通常、何時間も椅子に座っていないといけない。常日頃からスタッフの仕事に敬意を払うシャーリーズは、全く文句を言わなかったそうだ。「彼女は(メイクの間)全く動かないんです。元ダンサーだった彼女は、体のコーディネーションに長けています。彼女がメイクをしている数時間の様子をタイムラプスで見てみても、ただじっと座ったまま動かない。動く唯一の時は、脚本を読む時とか、お茶を飲む時だけでした」
『ジョーカー』で主演男優賞が有力視されているホアキン・フェニックスのメイクを担当したのが、ニッキー・レダーマン。彼女も、強烈なジョーカーのビジュアルは「コラボレーションのおかげ」と語った。「私たちが仕事を始めた時、監督のトッド(・フィリップス)から、トッドとホアキンが思い描くジョーカーのデザインを渡されたの。そこから、(ヘア担当の)ケイと、衣装デザイナー、プロダクションデザイナー、撮影監督と密接に仕事をしたわ。真実味があるものを作り出すには、全ての部門が一緒に仕事をしないといけないの」
興味深かったのは、『ジョーカー』は、メイク時間がかなり短かったことだ。ヘアスタイルを担当したケイ・ジョージャウは、「私がヘアをやっている間に、ニッキーがメイクをやって、15分ぐらいでジョーカーのメイクを仕上げた。私たちはみんな完全主義者だから、もしもっと時間があれば存分に使うけど、なければ与えられた時間でやるのよ」と語った。
また本作には、テレビ番組のホスト役で名優ロバート・デ・ニーロが出演しているが、今回デ・ニーロの歯を、日本人特殊メイクアーティスト、坂本・アート・陽一が手がけている。「彼は見事な仕事したわ。ボブ(デ・ニーロ)のために美しい歯を作ったの。トークショーホストの嘘っぽいほほ笑みを与える完全に真っ白な歯をね。それはあのキャラクターのとても大切な部分だった」。
ノミネーション作品が3本から5本に増えた今年は、『スキャンダル』をはじめ、『ジョーカー』『ジュディ 虹の彼方に』『マレフィセント2』『1917 命をかけた伝令』のヘア&メイクを手がけたアーティストたちが参加した。授賞式では、大方の予想通りカズ・ヒロが2度目の受賞となるか。(取材・文:細谷佳史・吉川優子)