平野レミ、夫・和田誠さんを偲ぶ「あまりにも優しい人」
昨年10月7日に肺炎のため逝去したイラストレーターの和田誠さんが「第93回キネマ旬報ベスト・テン」で特別賞を受賞した。11日に文京シビックホールで行われた表彰式には和田さんの妻で料理研究家の平野レミが出席し、優しかった和田さんとの思い出を振り返り「悲しくて悲しくて、本当につらいんですよ」と故人を偲んだ。
イラストレーターのほかエッセイストなど多岐にわたって活躍した和田さんは、『麻雀放浪記』(1984)『怪盗ルビイ』(1988)など映画監督としても高い評価を受けた。今回の特別賞は「映画の素晴らしさや愉しさを広く伝え、多くの映画ファンを育てた功績に感謝を込めて」という理由で送られることとなった。
和田さんの代理で出席した平野は「本当に場違い。わたしはこういうところでしゃべったことがないので。いつもはレミパンを持って、前掛けをつけて料理ばっかりやっているもんですから、こういうところは初めてなんです」とたたみかけると、「うちの夫は映画が好きで好きで大好きで。わたしは、和田さんが大好きな映画がライバルだったんですね。会社から帰ってくると、映画ばっかり観ていたから。でもわたしは、一言もうちの夫に『また観てるのね!』とは言ったことがないんですよ」と述懐。
さらに「だからわたしは和田さんのために、いつもいつもお料理をたくさん、一生懸命作って。(映画を観ることに)一言も文句は言ったことがなかったんですね。それで今、こういう風な賞をいただいて。うちの夫は多分、『レミがこんなところにいるなんて、何だよ』とビックリしていると思うんですけども……」と続けると、亡き夫に向けて言葉を紡いだ。
「和田さん、よかったね。こういうものをいただいて。でも生きている時に……。家の夫は今から6か月くらい前に亡くなっちゃったんですけど、もうちょっと長く生きていればね。生きていて、こういう賞をいただければ最高だったと思うんですけど。うちの夫が見ているのか、聞いているのか、わかりませんけど、とりあえずお父さん、こういう賞をいただきましたよ!」
和田さんは家では仕事の話はあまりしなかったそうで、「うちに帰ってくれば猫をかわいがって。子供をかわいがって。それでわたしが10時頃まで寝ていると、『はい、お茶ですよ』と言ってくれる。わたしに起きろとは言わないのね。優しいんですよ。すべてにおいて優しいの」とその人柄に触れる平野。「だからあまりにも優しい人と結婚しちゃったからね。後がつらいんですよね。それが嫌な事があった、こんな嫌なことがあったということなら、こんなに悲しくないんですけどね。今、あたし悲しくて悲しくて、悲しくてね。本当につらいんですよ」と続けると、こみ上げるものがあったようで「もう泣いちゃうからやめますね。いっぱい思い出すの」と締めくくり、万雷の拍手が鳴り響いた。(取材・文:壬生智裕)