大阪アジアン映画祭、閉幕!グランプリはタイ映画『ハッピー・オールド・イヤー』
3月6日から大阪・福島のABCホールなどで開催していた第15回大阪アジアン映画祭が15日、閉幕した。最終日には受賞結果が発表され、最優秀作品賞に当たるグランプリには『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017)のチュティモン・ジョンジャルーンスックジンが主演したタイ映画『ハッピー・オールド・イヤー』(ナワポン・タムロンラタナリット監督)が輝いた。しかし新型コロナウイルスの感染拡大の影響を考慮してセレモニーは行わず、受賞者・作品の発表だけ行った。
新型コロナウイルスの感染が拡大し、多くの映画祭が中止や延期の対応を迫られる中、縮小開催を選択した同映画祭。開催期間中の3月11日には世界保健機関(WHO)パンデミック宣言し、事態は刻々と深刻さが増していったが、同映画祭の対応はブレることはなかった。
同映画祭を主催する大阪映像文化振興事業実行委員会の上倉庸敬委員長は「9年前の開催中に東日本大震災が起こった。その時骨身に染みたのは、当面の間は自分の仕事をしっかり行うということ。ウイルスに関しての専門家は医者ですが、映画祭に関しての専門家は事務局のスタッフですので彼らを信頼し、感染予防の対応策だけは最善策を取ったつもりです」と振り返った。
開催決定が下されたのは、2月23日前売りチケット発売を控えての、4日前のことだったという。実行委員会の構成団体である大阪市からの中止または延期要請を受け、大阪市を除く上倉委員長を含む実行委員9人の採決を取ったところ全員開催に同意。その評決を受け大阪市より開催にあたって感染拡大防止に向けた対応策の要請があった。それに則り、会場での注意喚起の文書の掲示や消毒液の設置など準備を行っていたという。
さらに2月29日に大阪市内のライブハウスで感染者が出たことが公表されたことで対応策を強化。「風通しが悪く、人が密着する場所を避ける」ことが感染予防につながることから、まずはスタッフの人数を減らすべく、今年はボランティアスタッフを採用しないこと、さらに上映会場に留まる時間を少しでも短くするために舞台あいさつやQ&Aを行わないことを決めた。既にボランティア延べ約100人への説明会も担当シフトも決まっていたが、開催4日前の3月2日に採用取り消しの連絡をしたという。
続いて予定していたゲストが渡航制限などで来日が不可能となり、コンペティション部門と芳泉短編賞の審査員を一部、変更することとなった。また、体調に不安のある場合や、来場を希望されない前売りチケット購入者には払い戻しの対応にも応じる旨を発表していたが、完売となる回もあるなど「正式な数字が出るのは今月末だが、ざっと見て例年より3割減の動員数」(広報)に留まった。
もちろん新型コロナウイルスの潜伏期間は約2週間と言われており、映画祭が無事に終わったとはいえ予断を許さない状況ではある。また開催にあたっては賛否あるだろう。上倉委員長も「正直あとは(感染者が出ないことを)祈るしかありません。一方で、映画祭は『不要不急ではない』と思って下さる人が多くて驚いた」と語る。
災害・事故など年々、不測の事態が頻発するようになったが、その際にわれわれはどのような対応を取るべきか。今回の体験が今後、生かされることを期待すると同時に、改めて映画祭の役割や価値を考えるきっかけになることを願いたい。(取材・文:中山治美)
受賞結果は以下の通り。
■グランプリ(最優秀作品賞。副賞:賞金50万円)
ナワポン・タムロンラタナリット監督『ハッピー・オールド・イヤー』(タイ)
■来るべき才能賞(副賞:賞金20万円)
パク・ソンジュ監督『家に帰る道』(韓国)
■最優秀男優賞
間瀬英正『コントラ』(日本)
■ABCテレビ賞(副賞:テレビ放映権として100 万 円)
クリッサント・アキーノ監督『愛について書く』(フィリピン)
■薬師真珠賞(最も輝きを放っている俳優に授与。副賞:真珠装飾品)
レオン・ダイ『君の心に刻んだ名前』(台湾)
■JAPAN CUTS Award
三澤拓哉監督『ある殺人、落葉のころに』(日本・香港・韓国)
■芳泉短編賞(副賞:次回作研究開発奨励金として10 万円)
岸建太朗監督『Hammock』(日本)
■観客賞(副賞:真珠装飾品)
デレク・ツァン監督『少年の君』(中国・香港)