どうなるコロナ後の映画祭…バーチャル併用がスタンダードに?
カンヌ国際映画祭が、今頃になって今年のラインナップを発表した。カンヌ映画祭は毎年5月中旬に開催されるため、本来ならばこの発表は4月に行われるべきものだ。だがコロナの影響で、今年は延期の末、ついにキャンセルする羽目になってしまった。それでも、選ばれていた作品には権威あるカンヌのブランドを与えるべく、「カンヌ2020」というレーベルが作られたのだ。(Yuki Saruwatari/猿渡由紀)
【画像】大胆ドレスも着こなしちゃう!カンヌでのエル・ファニング
中には来年に繰り越しを希望した作品もあるため、このレーベルをもらったのは、上映が予定されていた作品のうち56本。これらは、トロント、サンセバスチャン、ニューヨーク、釜山、東京など、今年後半の他の映画祭で上映される予定だという。サンセバスチャンはとりわけ協力的で、「カンヌ2020」作品もコンペ対象とする姿勢だ。
そうは言っても、それらの映画祭もどうなるのか見えないのが実情。これからの映画祭の最初にあたるベネチア(9月2日~12日)は、「予定通り行う」と強気だが、ここはコロナで大打撃を受けたエリアだ。映画祭会場は本島よりずっと人が少ないリド島なのだが、映画祭というもの自体が非常に「密」なのが問題だ。シアターには毎回ぎっしり人が入り、常に複数のシアターで違った映画が上映されているため、人の行き来が激しく、行列もある。
ただし、マーケット以外ではバーチャルを否定したカンヌと違い、ベネチアは、海外から来られない記者のためにバーチャル併用も視野に入れている。それならば、おそらく実施自体は可能だろう。ベネチアの1週間後に始まるトロント(9月10日~20日)と10月のニューヨークも、バーチャルを併用するつもりだ。ニューヨークは、他にアウトドアのシアターも検討している。ニューヨーク映画祭のディレクター、ユージーン・ヘルナンデスによると、おそらく今年は、インドア、アウトドア、バーチャルの3種類を使うだろうとのことだ。
どうやって実施するのかということに加え、もう一つ、作品を決める上での困難もある。第二波が来るかどうかによっては、カンヌのように、そこで上映される予定だったのに映画祭自体がキャンセルされたというケースがまた出てくるかもしれない。その場合、それらの作品はどこが受け入れるのか。また、「密」を避けるために規模を縮小することになれば、上映本数が通年より減ることになるかもしれず、調整が必要となる。
作品の完成が間に合わないというケースもあり得る。3月以降、世界的に映画の製作がストップしており、今もまだほとんどの国で再開に至っていないからだ。この不安が一番大きいのは、年明けのサンダンス。今年、ディレクターを引き継いだばかりのタビサ・ジャクソンは、「来年のわたしたちの映画祭にどれくらい作品が提出されるのか、今はまだ想像もつかない。秋には、その頃の映画祭がどんな感じに実施できているか、撮影再開状況がどうなっているかで、もう少し見えているかも」と語っている。
さらに、スターが来てくれるのかという懸念もある。美しいドレスを着た映画スターがレッドカーペットを歩くからこそ、一般メディアはその映画祭を取り上げるのだ。記者会見がZOOMやYouTubeになれば、映画専門メディアの記者やシネフィルは見てくれても、宣伝パワーは大きく落ちる。
だが、そういった理想とほど遠い形になったとしても、フィルムメーカーにとって映画祭は貴重だ。映画祭こそ、自分の映画を発見してもらえる場所であり、アワードシーズンの第一歩だからである。過去10年のオスカー作品賞受賞作は、どれも、主要な映画祭で受賞したか、あるいは上映されて好評を得た。そんなお宝が、今年もまた潜んでいるはずだ。それらが見逃されないためにも、無事に実施されることを祈るばかりである。