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新作続く人気脚本家・坂元裕二の名作ドラマ7選

テレビ朝日系SPドラマ「スイッチ」より 左上から時計回りに眞島秀和、中村アン、阿部サダヲ、松たか子
テレビ朝日系SPドラマ「スイッチ」より 左上から時計回りに眞島秀和、中村アン、阿部サダヲ、松たか子 - (C)テレビ朝日

 緊急事態宣言による外出自粛要請期間中にNHKで放送された実験的な短編リモートドラマ「Living」で、約2年ぶりに新作テレビドラマの脚本を手掛けた人気脚本家・坂元裕二。そのオリジナル脚本の最新作「スイッチ」が、スペシャルドラマとして6月21日にテレビ朝日系で放送される(夜9:00~11:04)。放送を前に、坂元脚本の魅力を語る上で特に欠かせないテレビドラマ7作品を振り返ってみた。

【写真】坂元裕二脚本×阿部サダヲ×松たか子「スイッチ」場面写真

明確な変化が見られた異色のサスペンス「わたしたちの教科書」

 1987年に第1回フジテレビヤングシナリオ大賞を19歳で受賞し、1991年には「東京ラブストーリー」の大ヒットで、若くして注目を浴びた坂元。一時、自らの意志でテレビ界から離れ、ゲーム業界に移ったり、小説家を志していた時期もあったが、その時期を除けば、脚本家としてコンスタントにヒット作や話題作を手掛け、常に第一線で活躍してきた。ただ、初期の作品はプロデューサー主導の企画やキャスティングありきの企画が多かったように思われるため、以前の坂元には職人的な印象もあったが、そんなこちらの勝手な思い込みを解かせた最初の作品が、2007年にフジテレビ系で放送された「わたしたちの教科書」だった。

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 同作は、菅野美穂ふんする弁護士が、志田未来ふんする義理の娘の中学生が転落死したことから、その真相を明らかにしようとするストーリー。前半は学園もの、後半は法廷もののような二部構成の異色作で、いじめ問題や学校の闇を描き、第26回向田邦子賞を受賞するなど高い評価を受けた。社会性のあるテーマや先の見えない展開など、近年の作品に通じるものがあり、本作以前の作品とは明確な変化が見られる。しかし、坂元の作風が変化したというよりも、実績を積み重ねてきたことや22時放送枠であったことから、元々書きたかったものや重いテーマの作品などを書くことが認めてもらえるようになった時期の作品ということのようだ。

さまざまな「家族」の形を描く3部作

 坂元は、さまざまな“家族”の形を描いてきている。その中でも特に感動的な代表作が、日本テレビ系の水曜22時枠で放送された「Mother」「Woman」「anone」の三部作。物語的な繋がりは全くないそれぞれ独立した作品だが、チーフディレクターの水田伸生らのメインスタッフが共通しており、家族の再生や人と人との繋がりを疑似家族的に描いている。

 中でも2010年に放送された「Mother」は、「わたしたちの教科書」で見せた作家性が高い評価を受けた坂元が、本当にやりたいことを形にできる状況が整った最初の作品といえる。松雪泰子ふんする元研究者の孤独な小学校教師が、親から虐待を受けていた芦田愛菜ふんする生徒を守るため、誘拐して母親になろうとする。犯罪者から救うため、自ら犯罪者となってしまう皮肉な物語だが、血を分けた親子よりも深い主人公と少女の絆は大きな感動を呼び、当時6歳ながら天才的な演技をみせた芦田愛菜をブレイクさせた。また、多数のドラマ賞を獲得したが、海外での評価も高く、トルコでのリメイク作品が世界的にヒット。韓国ほかでもリメイクされている。

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 2013年放送の「Woman」は、満島ひかりふんする2児のシングルマザーと、彼女を幼い頃に捨てた田中裕子ふんする母との物語。2018年の「anone」は、広瀬すずふんするネットカフェ暮らしの身寄りのない少女が、ひょんなことから出会った仲間たちと、偽札作りに手を出すことになる。共に社会的弱者の貧困問題などを背景にしており、さまざまな困難も描かれるが、登場人物が魅力的で、彼らが生きていく姿をずっと見続けたいと思わせられる。また、全く違う役だが、3作すべてに田中裕子が出演し、その圧倒的な存在感で重要な役を担っている。

笑って泣ける大人のラブコメ「最高の離婚」「カルテット」

 坂元作品の常連俳優としては、永山瑛太と満島ひかりがその筆頭ともいえる。2011年にフジテレビ系で放送された「それでも、生きてゆく」では、瑛太が少年犯罪の被害者の家族、満島が加害者の家族を演じ、主人公とヒロインを務めた。瑛太と満島は、撮影現場でほとんど会話を交わさないほど役にのめり込み、加害者役の風間俊介や被害者の母を演じた大竹しのぶなどの共演者たちも、魂をぶつけ合うような迫真の芝居をみせた。悲劇を乗り越えて生きて行こうとする人々を力強く描いており、見る者の心を激しく揺さぶる見応えのある作品だ。

 シリアスな作品ばかりのようだが、さまざまなジャンルの作品を手掛けている坂元。どの作品でも多彩な人物が登場するし、随所にユーモアを交えていることが多い。そんな坂元のコメディー・センスが特に発揮されていると共に、日常的な台詞の上手さが堪能できるのが、2013年にフジテレビ系で放送された「最高の離婚」。瑛太&尾野真千子綾野剛真木よう子がそれぞれ夫婦役を演じ、二組の夫婦の結婚観や家族としての在り方を描いたラブコメディーで、おかしくも切ない、まさに笑って泣ける作品。個人的にも、老若男女問わず最もオススメしたい名作だ。また、本作の好評を受け、2014年には続編の「最高の離婚Special2014」も放送された。数年ごとに主人公たちの姿を追っていくような構想もあったらしいが、実現していないのが残念。売れっ子俳優ばかりのためか、タイミング的な問題があったようだが、いつの日かぜひとも続編を期待したい。

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 近年の坂元作品はどの作品もオススメできることは間違いないが、テレビドラマ好きに特にオススメしたいのが、2017年にTBS系で放送された「カルテット」。松たか子、満島ひかり、高橋一生松田龍平が演じる全く立場や出自の異なる4人が、弦楽四重奏のカルテットを結成し、軽井沢の別荘で共同生活を始めることになる。行き先の見えない物語は、時にはラブコメのようで、時にはサスペンスのよう。一言で言い表せない多様性のある物語は、非常にスリリングで、どこにいきつくかわからない、連ドラならではの醍醐味を楽しめる。第1話で中心人物の4人が、夕食のからあげを囲みながら、レモンをかけるかかけないかで論争するシーンは、一見とりとめのない滑稽な雑談の中で、それぞれのキャラクターを表現してみせた、この作品を象徴すると共に坂元脚本の真骨頂ともいえる名シーン。椎名林檎が本作のために書き下ろしたメインの4人が歌う主題歌(『おとなの掟』)から、演者自身も驚かせた予測不可能な展開まで、全編に見どころの多い作品だ。

 売れっ子だけに先々までスケジュールを押さえられ、2018年の「anone」まではほぼ毎年のように連続ドラマの脚本を手掛けてきていた坂元。テレビドラマ以外のこともやってみる時間をとってみたかったため、数年前から計画的にテレビドラマのスケジュールを入れない期間を作っていたという。そうして、舞台の戯曲や映画脚本を手掛けたり、朗読イベントや東京藝術大学での後進育成なども行っていたようだ。そんな期間を経た坂元が、久々に主戦場のテレビドラマで執筆したのが、「Living」と「スイッチ」だ。

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 その放送が迫る最新作「スイッチ」は、不器用な大人たちの恋をサスペンスも絡めて描いたオリジナル。主演は、坂元作品には「anone」やリモートドラマ「Living」に出演している阿部サダヲ。ヒロインに「カルテット」以来の坂元作品となる松たか子。元恋人同士の検事(阿部)と弁護士(松)が、ある事件を巡って対峙することになる。テレビ朝日と月川翔監督共に、坂元は初めて組むことになるが、坂元らしい膨大な量の台詞を掛け合う巧みな会話劇が、共演の多い芸達者同士でもある阿部と松によって楽しむことができそうだ。また、今冬には『西遊記』以来13年ぶりに映画脚本を手掛けた『花束みたいな恋をした』(有村架純菅田将暉のダブル主演)の公開も予定されている。「カルテット」などで組んできた土井裕泰が監督を務めており、こちらも楽しみでならない。(天本伸一郎)

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