寡黙な剣豪から人情ヤクザまで!西島秀俊の振り幅がすごい映画8選
再放送中の連続テレビ小説「純情きらり」で、人間味あふれる津軽弁の画家・杉冬吾を情感豊かに演じている俳優・西島秀俊。その硬軟を織り交ぜた巧みな表現力で作品ごとに全く違う個性を生み出し、ファンをつねに歓喜させてきた。寡黙な剣豪、復讐に燃える刑事、不倫に溺れるエリートビジネスマン、さらには情にもろいヤクザの兄貴……振り幅の大きさに改めて驚かされる8作品を振り返りながら、フルスロットルで役に挑む西島の役者魂に迫る。※多少のネタバレあり(坂田正樹)
『ニンゲン合格』(1999)
鬼才・黒沢清監督作品。14歳のときに交通事故に遭い、昏睡状態だった主人公・豊(西島)が10年ぶりに目覚めた。奇跡の生還に家族は大喜びかと思いきや、迎えにきたのは風変わりな父の友人・藤森(役所広司)。家に帰れば一家は離散し、なぜか藤森が敷地で釣り堀を営んでいる。なんとも黒沢監督らしいカオスな状況だが、何より不可解だったのは豊の振る舞い。話を聞いているかと思えば飽きてお菓子を食べ始めたり、素直に手伝いをしているかと思えば急に反抗的になったり、その姿はどう見ても中学生……そこでハッと、彼が14歳で心の成長が止まっていることを思い出す。西島は10年分の人生経験を完全に消し去り、自然でリアルな“中学生”を体現。子供なりの知恵で家族を再生しようと頑張る姿が大きな体と相まって、とても愛おしい。西島の内面に目を向けた演技が光る作品だ。
『クリーピー 偽りの隣人』(2016)
『ニンゲン合格』から17年、再び黒沢監督とタッグを組んだ西島は、奇妙な隣人に翻弄される元刑事の犯罪心理学者・高倉を熱演し、俳優としての成長を見せつけた。言葉巧みに周囲を惑わす謎の男(香川照之)、無視すりゃいいのに世話を焼く妻(竹内結子)、そして二人の間にただならぬ気配を感じ取る元刑事……絶妙な舞台設定で物語は否が応でも盛り上がるが、西島の演技が最も光ったのは、並行して進行する一家失踪事件の生存者である女性(川口春奈)の聞き取りシーン。彼女の話に引き込まれ、つい「面白い!」と目を輝かせたり、自分の思い通りの証言を引き出そうとパワハラまがいの圧力で攻め立てたり、ときに人間性を疑う行動に出るところが実に興味深い。犯罪心理学やサイコパスに取り憑かれるあまり、自身も常軌を逸してしまう心の脆弱さこそ、実は一番の恐怖だったりするのだ。
『Dolls ドールズ』(2002)
悲恋を描いた人形浄瑠璃「冥途の飛脚」をモチーフに、死に向かって旅立つ男女の刹那を描く北野武監督作品。婚約者(菅野美穂)を裏切り、自殺未遂に追い込んだ自責の念から、男(西島)はあてどない旅を通して、彼女に一途な愛を降り注ぐ。人形の芝居を人間が演じるという新たな試みのなか、西島と菅野は言葉を超えた魂の交流を重ねながら愛を冥界へと昇華させていく。刹那を生きた二人だけの旅路は、どんなラブストーリーよりも美しく、そして尊いものとして映し出された。本作への出演が大きな転機となったと語る西島は「たけしさんは僕を見出してくださった恩人。勝手に思っているだけですが、僕の中では心の師匠」と熱い思いを明かしている。
『散り椿』(2018)
名キャメラマンの木村大作が『劔岳 点の記』『春を背負って』に続き監督した本格時代劇。木村組初参戦となる西島の役は、瓜生新兵衛(岡田准一)の友で恋敵でもある榊原采女。自身を律しながら藩に命を捧げる“美しき侍”を見事な佇まいで体現した。思ったことを口にする武骨な新兵衛に対して、思いを内に秘める老獪な采女。言いかえれば、岡田の野性味に対して西島の気品、相反する二人のコントラストが、木村が構えるキャメラの中で火花を散らす。特に話題を呼んだ散り椿の木の下での対決は、時代劇史上に残る名シーンだ。撮影当日、岡田が突然、殺陣を変えたことによって生まれた段取りなしのワンカット一発勝負は、痺れるほどに見応えがある。
『CUT』(2011)
『駆ける少年』などで知られるイランの名匠アミール・ナデリ監督が日本映画として作り上げた衝撃作。売れない映画監督・秀二(西島)が借金返済のために殴られ屋を志願し、映画作りへの情熱を燃えたぎらせる。西島は2005年の第6回東京フィルメックスで審査員を務め、その会場でナデリ監督と出会い、意気投合。「お前は俺と映画を作る運命にある」という監督の言葉通り、夢が実現した。孤独だがマグマのような情熱を内に秘める秀二と一体化するため、撮影現場では誰とも口を利かなかったという西島。ボクサー映画と勘違いするほどの(一方的な)ファイトシーンが連続するが、殴られれば殴られるほど映画愛が狂気化するその凄まじい光景は、観る側をもKOする。『Dolls ドールズ』が人生の転機なら、本作は俳優の転機となった記念碑的作品。鍛え抜かれた肉体美にも注目!
『劇場版 MOZU』(2015)
人気ドラマの劇場版。妻子の死の真相を追う公安警察官の倉木(西島)は、警察内部の腐敗を突き止めるが、それは恐るべき陰謀のプロローグにすぎなかった。劇場版では、悪役組として池松壮亮、伊勢谷友介、松坂桃李、長谷川博己、さらに謎の黒幕“ダルマ”役としてビートたけしが名を連ね、各々がクセ者ぶりをいかんなく発揮。だが、我らが倉木先輩、どんなキャラクターが来ても動じない。座長として公安のエースとして、揺るぎない存在感を見せつける。鋼の肉体と鋭い眼光、孤独をまとった一匹狼男……喫煙姿も絵になる最もカッコいい西島を見たければ、迷わず倉木を推薦したい。特に灼熱のフィリピンで撮影された命懸けのアクションシーンは、何よりも雄弁に倉木の心情を表現し、観る者の胸に突き刺さる。ちなみに笑顔は一切なかったような? クール100%の西島も最高だ!
『サヨナライツカ』(2009)
辻仁成の小説を西島&中山美穂の共演で映画化した大人のラブストーリー。1975年のバンコクで、別の女性と婚約中のエリートビジネスマン・豊(西島)と、自由奔放な沓子(中山)の激しくも儚い逢瀬の日々が美しい映像で綴られる。30代後半、心身ともに脂の乗り切った西島が挑んだ役は、恋も仕事もブレーキの効かないやり手男。美人の婚約者(石田ゆりこ)がいるにもかかわらず、欲望のままに沓子と関係を持ってしまう、その無責任な行動に「なんて不謹慎な!」と思いながらも、映画的には最高のシチュエーション。人目を忍んで燃え上がる男と女、しかもイケメンエリートくんを西島が演じているとなれば、もうため息が止まらない。「君の汗の匂いが好き」……中山にそんなセリフを言わせてしまう、恋愛まみれの西島に骨の髄まで浸ってみてはいかがだろう。
『任侠学園』(2019)
義理人情を重んじるヤクザたちが経営不振の学校を救うべく奮闘するコメディー。組長(西田敏行)から、なぜか高校の再建をまかされたナンバー2の日村(西島)。子分を引き連れ現地に向かうが、彼らを待ち受けていたのは、覇気のない学生と事なかれ主義の先生たちだった。ケンカは強いが笑顔が苦手。パンチパーマのモデルをこなし、携帯の着信音はなぜかコケコッコー! 女子生徒からはオッサン扱いされているが、根は真っすぐな問題児(葵わかな)には同じ匂いを感じている。本作で人間味あふれるヤクザの兄貴を楽しそうに演じている西島は、最近もドラマ「きのう何食べた?」などのコメディー作品に積極果敢に参加して新境地を拓いている。ケンカ上等のヤクザ役も超新鮮、笑える西島がいっぱい詰まった本作は、サプライズだらけの逸品だ。