実録モノまで…ガチ怖幽霊屋敷ホラー傑作選
Jホラーを代表する大ヒット作であり、ハリウッドでリメイクも作られた『呪怨』シリーズ。日本発のNetflixオリジナル・シリーズ「呪怨:呪いの家」(配信中)は、旧シリーズのテイストを受け継ぎつつも単なる焼き直しにとどまらず、新しい恐怖を創造した画期的な一作となった。「呪怨:呪いの家」のように呪われた家=幽霊屋敷が舞台の傑作ホラーを紹介する。(高橋諭治)
心霊実録テイストの「呪怨:呪いの家」
本作では、映画『リング』(1998)の脚色を手がけたことで名高い脚本家・高橋洋が、昭和の終わりから平成にかけて起こったいくつもの忌まわしい事件(1997年の地下鉄サリン事件ほか)を物語の背景に取り込み、バブル崩壊後に経済不況にも見舞われていった時代の暗い閉塞感をフィーチャー。メインストーリーである“呪いの家”に関わった人々を襲う不条理な恐怖を、あたかも実録ドラマのように構成した。こけおどしのショック演出を排除し、緻密な時代考証とキャラクター描写を重んじた三宅唱監督の丹念な語り口と相まって、登場人物の人生を根こそぎ狂わせる“呪い”が異様な迫真性をみなぎらせる作品となった。
一見関係のなさそうな複数のエピソードがパラレルに同時進行するこの群像劇形式のホラー・ドラマは、時代の移り変わりとともに題名にもなっている“呪いの家”へと収束していき、あっと驚く時空のねじれとともに怒濤のクライマックスへなだれ込む。呪いの家そのものはフィクションだが、郊外にたたずむ何の変哲もないその一軒家が、私たちの日常世界に本当に存在しているようなリアリティーを獲得していることも、本作の心霊実話テイストをいっそう生々しく感じさせる。
日本では特定の住宅にまつわるまがまがしいウワサが立つと、不動産価値が下がったり、賃貸物件の利用者に敬遠されてしまうため、おおっぴらに「あそこは呪いの家だ!」などと語れることはほとんどない。しかし欧米では“ホーンテッド・ハウス”と呼ばれる住宅やホテルが実際に数多く存在し、ドキュメンタリーやフィクションの題材になっていたりする。ここからは、そんな本当の幽霊屋敷を題材にした実録ホラーを紹介していこう。
猟奇事件が起きた大邸宅で…猛反響呼んだ『悪魔の棲む家』
もはや実録幽霊屋敷映画の“古典”というべき有名な作品が『悪魔の棲む家』(1979)だ。1974年11月13日、アメリカ東海岸ロングアイランド・アミティヴィルのオーシャンアベニュー112番地に建つ大きな邸宅に暮らしていたデフェオ家の長男が、両親や弟妹たちをライフルで皆殺しにするという猟奇事件が発生。その後、この家に引っ越してきたラッツ家の5人家族を襲った怪奇現象の数々が描かれていく。原作はジェイ・アンソンの「アミティヴィルの恐怖」。この全米ベストセラーとなったノンフィクションには、事実と異なる記述があることも指摘されたが、映画は大きな反響を呼び、その後は数多くの続編やリメイクが製作された。
英国で史上最長のポルターガイスト事件!?『死霊館 エンフィールド事件』
実録と銘打ってもフィクションには大げさな誇張が付きものだが、ジェームズ・ワン監督作品『死霊館 エンフィールド事件』(2016)は最も史実を尊重した実録ホラー映画のひとつだろう。著名な超常現象研究家であるエド&ロレインのウォーレン夫妻を主人公にした本作は、英国ミドルセックス州で起こったエンフィールド事件を扱ったもの。ある町営住宅で2年以上も怪奇現象が頻発したこのケースは“史上最長のポルターガイスト事件”とも呼ばれ、英国心霊調査協会による音声テープ、写真、動画が多数残されている。ワン監督はその調査記録に基づき、少女の空中浮揚などの超常現象を細やかに再現。心霊事件を科学的なアプローチで解明しようとする描写もふんだんに盛り込み、実録幽霊屋敷ものの決定版というべき一作に仕上げた。また、ワン監督はこの作品の冒頭で前述したアミティヴィル事件のエピソードも織り交ぜ、前作の『死霊館』(2013)ではこれまたウォーレン夫妻の事件簿のひとつである1971年のロードアイランド州ハリスヴィルにおける心霊実話“ペロン一家事件”も映画化している。
観光ツアーも!血塗られたからくり屋敷『ウィンチェスターハウス』
最近では『ウィンチェスターハウス アメリカで最も呪われた屋敷』(2018)も話題を呼んだ。ウィンチェスターハウスとはカリフォルニア州サンノゼに実在し、観光ツアーも行われている幽霊屋敷ウィンチェスター・ミステリー・ハウスのこと。この大邸宅の所有者だった未亡人サラ・ウィンチェスターを主人公に、複雑怪奇な増改築が何度も繰り返され、異形の巨大からくり屋敷へと変貌していったウィンチェスターハウスの血塗られた歴史が描かれていく。
さらに、19世紀前半のテネシー州の古めかしい屋敷で起こったオカルト実話の映画化『アメリカン・ホーンティング』(2006)、1987年のコネチカット州のいわく付き住宅を舞台にした『エクトプラズム 怨霊の棲む家』(2009)も、このジャンルの“正統派”といえる出来ばえ。ストーリー自体はフィクションだが、コネチカット州の幽霊ホテルで実際に撮影を行った『インキーパーズ』(2011・劇場未公開)では、おそるおそる怪しげなムードの館内を探索する従業員たちの恐怖体験に引き込まれる。人間の精神を蝕む異常現象という点で「呪怨:呪いの家」に通じるものがある『セッション9』(2001)も、かつて禁断のロボトミー手術が行われたマサチューセッツ州のダンバース精神病院跡地で撮影を実施したサイコ・ホラーだ。
そして“事故物件住みます芸人”として活動する松原タニシによるノンフィクションの映画化が実現した最新作『事故物件 恐い間取り』(8月28日公開)も要注目。もしも、かつて自殺や死亡事故があった“事故物件”に住んだら、いかに想像を絶する悪夢が待ち受けているのか。『リング』『スマホを落としただけなのに』(2018)の中田秀夫監督がメガホンを執り、亀梨和也が主演を務める。新たな心霊実話ホラーの“リアルすぎる恐怖”に期待したい。