今夜の金ロー『となりのトトロ』が長年愛され続ける理由
スタジオジブリの名作アニメーション映画『となりのトトロ』(1988)が、「金曜ロードSHOW!」(日本テレビ系)で本日14日よる9時より放送される。放送を前に、本作が世代を超えて愛され続けてきた理由に改めて迫りたい。
今回で17回目のテレビ放送となる『となりのトトロ』は、『おもひでぽろぽろ』(1991)から映画の冒頭に出てくるスタジオジブリのシンボルマークにもなっている、ジブリを象徴する人気作。しかし、公開時は最初に想定していた配給会社から「オバケ(『となりのトトロ」』のこと)と墓(『火垂るの墓』)の2本立てでは暗くて商売にならない」と配給を断られた企画だった。実際、初公開時には35日間で5億8,800万円の配給収入しか挙げられず、興行的には惨敗した。
しかしキネマ旬報ベスト・テンで日本映画第1位になるなど作品の評価は高く、また公開翌年の4月に初めてテレビ放送された時には21.4%という高視聴率を獲得。海外でも早くから人気があり、筆者が1991年に『アラジン』(1992)の製作をしていた米バーバンクのウォルト・ディズニー・スタジオを訪れた時には、ディズニーのアニメーターの部屋に大きな『となりのトトロ』のポスターが飾られていて、何人ものアニメーターが『トトロ』のファンであると言っていた。後の『トイ・ストーリー3』(2010)にはトトロのぬいぐるみも登場している。つまり『トトロ』は、公開後に国内外で注目を浴びた作品だったのだ。
では『トトロ』の何が、人気を集めたのだろう。一つは作られた時代で、1988~89年はバブル経済の真っただ中。地価が高騰し、深夜までクラブや酒場で人々が浮かれ遊ぶ状況の中、その反動としてテレビのない1950年代の田園地帯を舞台にした『となりのトトロ』には、日本の原風景を思わせる懐かしさがあった。自然と共に生きるサツキやメイには、嘘くさいバブルのから騒ぎとは違った、地に足がついた生活の匂いが感じられたのである。
またトトロやネコバス、まっくろくろすけなど“モノノケ”たちが魅力的。モノノケを、日本各地で伝承されてきた姿を基に漫画化したのが水木しげるの妖怪とするなら、宮崎駿監督は舞台を所沢という東京近郊の田舎に設定することで伝承と切り離し、バスやこうもり傘など現代的なアイテムと動物を合体させて、新たな親しみやすいモノノケを創造した。妖怪にはどこか怖いイメージが付きまとうが、トトロやネコバスは可愛いイメージと直結し、ぬいぐるみなどのグッズも大いに売れた。
加えてトトロが世界的にも人気を獲得したのは、人間の言葉を話さない存在だったことも要因だろう。子供たち以外には突風がすぎたとしか感じない走るネコバスや、一夜のうちに作物を成長させて大地の生命力を増幅させるトトロは、どんな言葉よりも雄弁に自然の奇跡を感じさせる。自然そのものを象徴する彼らモノノケたちに抱かれて、共に遊ぶことがどんなに楽しいかを、観る者はサツキやメイと一緒に味わえる。その自然との共生体験が、国境を超えて共感を呼んだ。
さらに子供たちのハートを捉えたのが、「となりのトトロ」や「さんぽ」といったテーマ曲だった。特にオープニングで歌われる「さんぽ」はアニメーションソングでありながら、今や幼稚園のお遊戯曲の定番。元気で楽しい歌詞と久石譲による親しみやすい曲で、幼児が歌う童謡のスタンダードナンバーになっている。
初公開から30年以上が経過したが、この作品が古びない一番の要因は、トトロが子供の時にしか出会えない存在だということだろう。今は大人になった人も、かつて子供だった時にトトロと出会った。そして現代の子供たちも、今度のテレビ放送で初めてトトロと出会いを果たすだろう。その子供の時にしかない初めての素敵な出会いを、トトロは世代が替わっても常にもたらしてくれる。トトロが子供にとっての初体験である限り、この映画はこれからも愛されていくに違いない。(文・金澤誠)