菅田将暉「無力だと感じた」周囲のおかげで成り立つ自分
4月に封切り予定だった中島みゆきの楽曲をモチーフに紡いだ映画『糸』は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で公開が延期になっていたが、8月21日に公開となった。小松菜奈と共にダブル主演を務める菅田将暉が、自粛の期間に感じたことを語った。
平成を代表する国民的人気曲「糸」が持つ“めぐり逢い”をテーマに壮大な物語が展開する本作。菅田演じる漣と小松ふんする葵は、13歳のときに出逢ったものの、運命のいたずらで離れ離れに。しかし、物理的な距離が離れていても、心が繋がることで、人は強くなれることが描かれる。
くしくもいまは、新しい生活様式が推奨され、人との距離をとることが重要と言われている。緊急事態宣言が発令されてからは、撮影はすべて中断された。菅田は「この自粛を経て強く感じたのが自分の無力さですね」とつぶやくと「俳優って手に職があるようで、自分一人ではなにもできない。カメラマンさんがいなければ映してもらえないし、メイクさんがいなければ整うこともできない。それは痛感しました」としみじみ語る。
菅田は俳優として活躍する一方で、アーティストとしての表現も追求している。「幸いなことに僕は音楽とラジオがあったので、自粛期間中もできることはありましたが、ドラマや映画は、人と人との繋がりを描くもの。俳優も人と接することで仕事になる。それが当たり前にならなくなると、僕らの存在ってなんなんだろう、と考えさせられました」
さらに菅田は、こうした状況に危機感を募らせる。「この状況が続くと、世の中的に人と交わらないことが当たり前になってきてしまうかもしれない。劇中でアクリル板が出てくること、マスクをしていることが当たり前になり、それがスタンダードになるかもしれない。そうすると抱き合ったりハグをしたりすることもできない。それで愛情表現することができるのか……」
これまで危機的状況があったときも、作り手は常にチャレンジし、時代と共に新しい表現方法を生み出してきた。こうした状況下でも、リモートでの撮影や技術を駆使した描き方も模索されている。「もちろん新しい表現方法が増えることは良いことだし、それによって減っていくものもあると思う。でも僕はいままでの当たり前が好きだから、どうしても人と人との触れ合いというのは捨てきれないですね」とこだわりを見せる。
菅田は「いま密になることができる映像って、広瀬(アリス・すず)姉妹とか、(永山)瑛太(・絢斗)さん兄弟とか家族しかできない。もう家族になるしかないですよね」と笑うと「映画で漣と葵が離れている期間がいまの状況で、二人が再会したときは、以前の状態に戻っていてくれるといいですよね」とこれまでの当たり前が戻ってくることに思いを馳せていた。(取材・文:磯部正和)