『スパイの妻』黒沢清監督、東出昌大に「普通じゃない路線追求」
第77回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞した映画『スパイの妻<劇場版>』(公開中)Q&Aトークイベントが21日、ヒューマントラストシネマ渋谷で行われ、黒沢清監督が登壇。憲兵・津森泰治役として出演した東出昌大についての質問に答える場面もあった。
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太平洋戦争前夜を舞台に、満州で偶然恐ろしい国家機密を知り事の顛末を世に知らしめようとする優作(高橋一生)と、その妻・聡子(蒼井優)の試練を描く。10月16日から公開がスタートしたが、今後、世界89か国で配給されることも決定し、世界中で大きな広がりを見せている。
この日は、映画を観たばかりの観客の質問に黒沢監督が直接答える形でトークが展開。本作のほかにもドラマ「予兆 散歩する侵略者」、映画『散歩する侵略者』(共に2017)など黒沢作品に出演してきた東出について「次回作はどんな役で?」と質問されると、黒沢監督は「僕の映画だと、人間じゃない場合も含めて大抵変わった役なんですよね」とつぶやき。「パッと見からしてすごく背が高く、いい意味で普通じゃないですよね」と語ると「こんな人間離れしたキャラクターは貴重なので、これからもしばらくは普通じゃない路線の東出さんを追求していきたいと思います」と回答し、客席を沸かせていた。
また、夫婦役を務めた蒼井と高橋の演技について印象に残っている場面を問われた黒沢監督は「蒼井さん(聡子)が高橋さん(優作)に対して、これから決定的なフィルムを見せるというシーン。あそこは細かく演出していないのですが、二人の関係性の変化を完全に理解してくれていて、観ていてすごく気持ちよかった」と述懐。
黒沢監督にとって時代ものは初めてとなったが「お金はかかりますが」と前置きしつつも、「時代ものは衣装、場所、セリフを含めて、準備してきたものだけでやらなくてはならない。カメラにしても、セットが『ここまで』と決まっているので、自由に動かせない。枠をガシガシに決められていて、そこで何ができるかが勝負。それはすごく楽しかった。今度は同じ時代でも派手なドンパチがある映画を作りたい」と笑顔を見せていた。
ベネチア映画祭の審査員が本作を「まるでオペラを観ているようだ」と評したことについては「意外な言葉でしたね」と胸の内を明かすと「テレビ中継とかでは観たことがありますが、劇場でまともにオペラを鑑賞したことがないので、何がオペラ的なのかは分かりません」と苦笑いしていた。
その他、濱口竜介、野原位と黒沢監督の3人で作った脚本について、8Kでの撮影や神戸という設定で時代ものをとる苦労話など、興味深い黒沢監督の話に客席は聞き入っていた。(磯部正和)